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アイコ十六歳のakrutmのレビュー・感想・評価

アイコ十六歳(1983年製作の映画)
4.0
名古屋の高校に通い、弓道部に所属する高校1年生・三田アイコの内面を、学校生活などでの出来事を通じて描いた、今関あきよし監督の青春映画。アイコを演じた富田靖子は、127,000人の応募者があったオーディションで主役に抜擢されてデビュー。松下由樹(本作でのクレジットは本名の松下幸枝)もアイコの友人役として本作でデビューしている。また、今関あきよし監督にとっても、初めての商業映画である。

同じ年頃に同じ時代を生きた自分にとっては、描かれている高校生や学校生活の雰囲気が懐かしく、富田靖子の可愛らしさとともにノスタルジックな気分に浸れる。日常の高校生活で感じているネガティブな気分を解消する清涼剤として機能する、自宅の屋根に登って見晴らしの良い景色を眺めるシーンが印象的。富田靖子の演技はどこかぎこちない感じもするが、それが逆に当時の思春期の少女の質感を上手く表現しているように思う。演技の経験など全くないままにオーディションで主役に選ばれたので、撮影はとても大変だったみたいなことを、最近聞いたラジオ番組で話していた。原由子やサザンオールスターズの曲が使われていたことは忘れていた。

いかにもどこにでもいそうな普通の女子高生を描いた青春映画としてはとても良い出来であるが、よくよく考えると映画で出てくるエピソード(中絶、自殺、事故死)はかなりシリアスである。それもそのはず、本映画の原作である堀田あけみの小説『1980アイコ十六歳』は、青春小説ではない。小説でのアイコは、大人や一部の同級生との分かり合えなさに苦しみながらも毅然とした態度をとる、ちょっととんがった/生意気な女子高生として描かれていたと(小説を読んだのがずいぶん前なので正確には覚えていないが)思う。そんな少女の内面的な苦悩を描くのに、シリアスなエピソードがフィットするのである。この小説が文藝賞(河出書房新社が主催している文学の新人賞)を取ったときに、堀田あけみが(当時の)受賞者の最年少だったという話題性もあって、TVドラマ化そして本映画化と、当時流行っていたメディアミックス戦略に乗っかって、青春映画化されていったのだろう。まさに、最近原作者が自殺したことで注目されている原作の映像化における不公平な関係の話でもあり、著者の堀田あけみもそういう趣旨の発言をしている。
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