大道幸之丞

ターミネーター4の大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

ターミネーター4(2009年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

原題は「Terminator Salvation」でSalvationは「救い」の意味

私にとってはシリーズ最高傑作と評価したい。脚本がいい。

版権を買い取ったこれまでの3作とは違う制作会社。

それもあってか「リブート」とまでは言わないが(第1作から25年も経っているし)キャスティングが大胆に入れ替えされ、何より舞台はほぼ「審判の日」以降の未来だ。

そして本作の主人公はジョンコナーでもカイルでもなく実質マーカス・ライト(サム・ワーシントン) だ。新型ターミネーターも出ない。

頑健な肉体と精神があり、衛星パンドラのナビィでは無敵の勇者ながら一方で実態は身体に障害を持ちベッドに横たわる男──と言う「アバター」のジェイク・サリー役で好演した俳優(撮影はアバターが先だが公開年は本作と同じになった)で、「ペーソスを抱え切る事が出来る新ヒーロー」とも言える役柄が印象的だったが、今回はそれと非常にニュアンスが似ており彼のファンを決して裏切らない。

本作はT3まで鑑賞したユーザーから激しい賛否が巻き起こったという。それは本作ではこれまで人間と機械の対立軸がありながらなぜか取り上げられなかった要素が新たに加わったからであろう。

この脚本には深い哲学性がある。「人間が蔑ろにされつつある2024年の現代」からの視点としてもラストはスカッとはしないだろう。そこで既存の流れを好んだ層の評価が分かれたと観る。

そして本作の「メインテーマ」といってしまってよい「それ」を驚くほど他のfilmerksユーザーは取り上げていない。

私は正直、不意打ちを喰らった。古くは「ピノキオ」日本では「人造人間キカイダー」。そして時代は流れSFでは「アルジャーノンに花束を」「ブレードランナー」などが投げかけた「人間とロボットの差の自問・苦悩」は私の「十八番」のつもりなので、まさかそれをここで突き付けられるとは思わなかった。

——本作唯一、現代の場面の冒頭では「兄と警官殺し」で死刑囚となったマーカスの姿がある。彼は「やり直せるなら命を懸けても2度目の人生のチャンスを掴みたい」と心から渇望している。

監獄内に面談を申し出、それを利用するかのように「叶えられる」と誑かしサイバーダイン社のエージェントセレーナ・コーガン ( ヘレナ・ボナム=カーター)に献体を懇願されている。第1の人生を失う覚悟で出した交換条件はセレーナとの「キス」だった。キスのあとに「これが死の味か」とつぶやく。サイバーダイン社に到着した彼には献体施術の仔細は伝えられていない。周囲には教誨師もいて物々しい、この献体は「死刑同然の内容」である事を我々に示している。

薬物が次々に投与され薄れゆく記憶の中で彼にあるのは「目覚めた時には第2の人生をスタートできる」という願望に近い念いだけだった。

——場面は変わり「審判の日」以降の2018年、スカイネット研究開発施設内に抵抗軍が攻撃を加え、データ奪取と捕虜の開放に先陣を切ったのは実績をあげ続けているジョン・コナーその人だった。

データと捕虜は地下施設にあり潜入すると何やら大量の実験途中の人体がラックに横たわるが、ここでマーカスも一瞬映る、その奥にはPCと捕虜たちの一群が見える。

だが、結果的にデータこそ確保されたものの捕虜はスカイネットの移送船で連れ去られた。
この場面の騒動で目を覚ましたマーカスが地上に出て逃走を行うが、全裸の為に狙撃された抵抗軍の衣服を拝借する。
地上に出たマーカスは未来の情報は提供されていないらしく、現在がどのような状況かも把握できていない。
しかし機械を扱う知識は持たされているし格闘も出来る様子で、スカイネットに攻撃されながら「まだ抵抗軍を名乗る資格がない」とはにかむ青年に窮地を救われる。彼の名はカイル・リース (アントン・イェルチン)そう、彼こそが後にジョン・コナーの父親になる人物だった。

彼は唖の少女スター(ジェイダグレイス・ベリー)を護りながら「抵抗軍LA支部」を勝手に名乗り前線を支えている。スカイネットの攻撃が激しくなりマーカスとともに3人は逃走する。

この道中で散らばる抵抗勢力にラジオで直接希望を鼓舞するジョン・コナーの存在を知る。カイルにとってはすでに「憧れの人」だった。

この途中で抵抗軍ではなく、ただひたすらに隠れ暮らす一群に会い食料を分けてもらう最中、捕虜捕獲用大型ロボットの「ハーベスター」が現れ一斉に攻撃を受ける。激しい戦闘の末にカイルとスターは捕獲され、マーカスだけ取り残される。ここまでの経過でカイルとスターはスカイネット側から常に照会されているが、マーカスにはそれがない。軽い疑念をひきづりながら物語は進む。

そこへ逃げ遅れた捕虜の捜索に出た抵抗軍の戦闘機が不時着し通りがかったマーカスが、パラシュートが引っかかって宙ぶらりんになっていたパイロットの女性ブレア・ウィリアムズ (ムーン・ブラッドグッド)を救う、道中暴漢に襲われたブレアを救うなど、ブレアは信頼感を深めともに本部拠点にたどり着く。

データを確保しスカイネット側の弱点も考察され短波で特定の信号を送ることで動きを封じ込める事が出来る。そこを一斉攻撃しようと本部は考えるが、しかしコナーは「捕虜の開放」にこだわり、結局作戦の指揮権を得る。

一方、ケガを観るためにマーカスの身体を診断したケイト・コナー( ブライス・ダラス・ハワード)はその姿に驚愕する。心臓はあるし血管も存在するが骨格とその他の臓器は機械に置き換えられているサイボーグだったのだ。

報告を聞いたジョンは半機械であるマーカスをとたんに「敵」とみなし拷問にかけ留置する。
ジョンは機械と始終戦っていながら、彼自身はそれをどう分けるべきかの基準を持っていなかったのだ。それをブレアがかばうがジョンは耳を貸さない。思い余ったブレアは警備兵を騙しマーカスを連れて逃げるが、間もなく捕獲される。追跡中に池へ落ちたジョンにマーカスが迫り「スカイネット」の本拠地でカイルが捕獲されており、ジョンの自分への疑念を逆手にとり「自分が本拠地で捕獲場所を誘導する」と交渉を持ちかける。

結局短波で信号を流すことでスカイネットの動きを止める案はスカイネット側の罠と判明し居場所を突き止められた潜水艦の抵抗軍本部は一撃で壊滅した。

スカイネット膝下の本拠地の捕虜開放は首尾よくいったが、カイルの発見に戸惑い完成したばかりのT-800に攻撃され重症を負いマーカスに救われる。
→本部を失い全権を掌握する立場となったジョンだったが、瀕死の重傷で特に心臓がもう持たない状況に陥っていた。皆が囲むベッドでジョンは息も絶え絶えに
抵抗軍章がついたジャケットをカイルへ与える。そのジョンの姿に意気を感じ心を打たれたのかマーカスは自身の心臓をジョンへ移植してほしいと懇願する。「これが俺の第2の人生だ」といいながら——

——スカイネット側は追手を過去3度未来へ送り込んでもコナー殺せなかったために、意図的に両者から敵とも味方の中間にポジショニングできるサイボーグをマーカスを献体に製造し、ジョンをスカイネット本拠地におびき寄せカイルもろとも一挙に抹殺しようと過去のサイバーダインを使い細工をしたのだった。

【思ったこと】
・ターミネーターは過去に行く役割から人型なのはわかるが、「ハーベスター」など、他のロボットは二足歩行型にする意味はあるのか。
 人間を信用できず反乱したスカイネットなら人間を憎悪しており、極めて機械的で建築工作機械のようなロボットにするのではないか

・マーカスという新たな人物設定は、結局抵抗軍を助け続けたのにサイボーグと知れた途端にジョンと抵抗軍から理不尽な目に遭った。
 というか殺されるところだった。しかし彼は過去に犯罪者であった負い目を自分で背負い「これぐらいの事に遭っても当然なのだ」と
 自分を制御しつづけたし、その挙げ句自身の心臓まで提供した。この2時間オーバーの作品の中で彼の存在は大きい(その姿に私は胸を打たれたし泣かされもした、ジョンがむしろ憎くなった)
 私は「それが故にジョン・コナーを クリスチャン・ベールクラスにキャスティングしなければ(存在感で負けるために)いけなかった」と観る。
原題のSalvationはこの2人の救いを指しているのであろうか。

・ハーベスター登場時の機械が出す嫌な音でかつ怖い音では良いチョイスをしたと思う。
https://youtu.be/1xOPmhQnC3w?si=A7jFbaA9W51eTqYq

・これまでメカデティールではSFファンからケチョンケチョンに言われ続けられてきたがこの点では満足のゆくデティールを実現していると思う。
・ジョン・コナーに関してはT3で見せたチャラい頼りのない判断力は本作でなにげに受け継がれていると思う。