すずきひろし

東京物語のすずきひろしのネタバレレビュー・内容・結末

東京物語(1953年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

原節子追悼Netflix観賞。この「東京物語」が、数ある小津安二郎の作品の中で、代表作とされているのは、小津の家族制度に対する結論が端的に示されているからなのかもなぁ、と思いました。

小津安二郎は、夫婦や親子、家族の絆やら愛情をベタな意味では全然信じていないのだけど、じゃあ、人は家族の再生産を繰り返す以外に何があるの、というと、何も無いよね、という諦念があるのだと思います。否定でも肯定でも無く、良くも悪くも諦念。

今回久しぶりに観直して、老夫婦が東京から尾道に帰る時、一時的に大阪に立ち寄った際、笠智衆の「自分達は幸せな方だ」という諦念からの言葉を、東山千栄子は、ベタに自分達の人生を肯定する言葉だと解釈して微笑む、こんなに長い間連れ添っても生じてしまう、夫婦間の価値判断における根源的な齟齬を、笠智衆が理解しつつ、それもまた諦念として受け止める、というのを、東山千栄子が髪を直すちょっとした仕草だけで表すのが本当に凄いと思いました。

原節子は、未亡人という、家族制度からつかず離れずにいる距離であるからこそ、老夫婦に対して優しく理想的な子を演じる事ができる、その狡さを自覚しているからこそ、最後、笠智衆に感謝されるといたたまれなくなって決壊したように号泣する。笠智衆は、そんな原節子を、自らもまた、老いと死によって家族制度から離脱するであろう事を諦念と共に受け入れている者の視点から、理解する。それで良いんだよ、やっぱりあなたは正直な良い人だよ、と。そして、それでも尚原節子に、新たな家族を持て、と勧めるんですよね。

「東京物語」、リアルタイムでは、家族制度を外側から眺める視点を持っている観客は多くなかったかもしれませんが、その自明性が崩壊しつつある現代においては、作品の視座に素直に共感できる人は、むしろ昔より多いのではないかと思います。