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東京物語のKHのレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
4.5
70歳に差し掛かる夫婦が息子、娘を訪ねるために広島の尾道から東京に出てくる話。
子供たちはみんな結婚して子供(孫)が居たりしてそれぞれの家庭ができてる中で、ちょっとした居心地の悪さや気まずさが漂っている。
子どもって言っても、成人したら親元離れてそれぞれの家庭を築いて、親に対する人生の優先順位も下がってしまう気持ちも分かるし、それを素っ気なく寂しく思う親の気持ちも分かる。
いくら仲良くても物理的に会う時間が無くなると他のことでその時間が埋まっていくから、人生における優先順位と日常にその人がいるかどうかはある程度相関する。
確かにこれは子供が親から自立することだけど、厄介者扱いされると心が痛い。
多分観客は立場的にどちらかと言うと子供の立場の人が多いと思うけど、映像としてはお母さん、お父さんにフォーカスしてるから、どっちの気持ちにも共感できる構造になってる。
親が危篤になっても、事務的な頭が働く気持ちも分かるけど。
時代背景的にも敗戦直後の慌ただしさのまさに真っ只中の東京で、みんな戦争を忘れようと戦後の復興に向けて忙しさが漂う。
戦前の価値観は完全に壊されて、核家族的な家族像が東京では馴染んでくる中、広島から出てきた老夫婦。
子供たちにも、時代にも少しずつ置いていかれていて、居場所のない切なさが感じられる。
ラストシーンの紀子さんは美しかった。最後の告白は一貫して控えめな演出からヒロインチックな演技に変わることで印象的なシーンになってる。
多分紀子さんが献身的になれたのは、死んだ夫を少しづつ忘れていく罪悪感とか、自身の親の体験とかもあったんだろうな。だからこそ逆に血縁関係のないお義母さんお義父さんに、献身的になれて、感謝を述べられても「自分のため」とか「私ずるいんです」ってセリフが出てきたのかな。
あと映画全体の反復と最小限の構図が淡白で美しい。
普遍的なテーマを扱っているから色褪せない。
KH

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