Monisan

東京物語のMonisanのレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
4.3
観た。

去年の正月明けから一念発起して、1日1本映画を観ようと。その後、1週間で7本と目標を下方修正したけれど、無事に達成してこの1年で366本目の映画。
最後はこの東京物語にしようと決めていた。そもそも小津安二郎を全然観た事が無かった事、その他黒澤明、洋画の名作など観れていなかった映画をちゃんと観ようと思った事がきっかけだった。

でも小津作品に対して、偏見があって世の中で素晴らしいとされている作品を観て、つまらないと感じてしまったらどうしよう。そんな自尊心から手がつけられないでいた。
そんな中で、やっぱりお洒落な洋画にまずは手が伸びてしまう。昔から映画好きだと思っていたが、恥ずかしながらアキ・カウリスマキという名監督がぽっこり抜け落ちていて。この取り組みで彼の作品と出会えた事は大きかった。
とても居心地の良い映画で、画も音も役者達も好きになった。
そこでカウリスマキが小津を敬愛していた事を知り、まず一歩近づけたのかなと。

また尊敬する方が、ヴィム・ヴェンダースの映画を日本で撮影するという事もあり、彼の作品も観た。東京画、という作品は、小津の見ていた東京をヴェンダース視点で切り取るドキュメンタリー。笠智衆や、小津作品の撮影を担当した厚田雄春のインタビューを観られて、ここでも小津に触れられた。

A24製作の映画も沢山観た。その中で一際、作家性のあると感じたコゴナダ監督。彼も小津信奉者であり、コゴナダは小津作品の多くの脚本を手がけた野田高悟からとったものと知る。

この辺りから映画筋トレの成果もあり、小津映画が観たくなる。Amazonプライムのアナタへのおすすめにも小津作品が出てくるようになり、ここまでの道程は間違っていなかったのかなと。

最早、書いていて嘘くさくなってくるけど、秋には2023年12月で小津安二郎生誕120周年だとも知り、びっくりした。
もう何かの導きだって言わせてもらう事にした。

この映画は、尾道から出てきた両親が子ども達の家にお世話になる所から始まる。ところが忙しい医者の息子夫婦、娘は家業で忙しいのもあるがそもそも少しひねくれた性格なのかな、杉村春子がピッタリはまる。
早々に邪魔もの扱いされ始め、両親もする事も無しに東京で過ごす羽目に。
そこに戦死した次男の嫁、紀子が登場。原節子、本当に美しい。バスでの東京観光から、決して広くない自宅でのもてなし。健気。というか、原節子が好き。
長女夫婦に熱海旅行へと出される両親。最初は楽しめたが若者向けの安宿なのか、一晩中騒がしくよく眠れない2人。早々に東京へ戻るが、連れない長女の家にもいられずに、遂に宿無しになったなと笠智衆。切ない。

ここでも狭いながらお母さんだけなら泊められますと紀子。お父さんは知人と深酒し、酩酊状態の連れまで一緒に長女宅へ。連れは東野英治郎。本当こんな役ばっかだな、面白い。

そして広島へ戻る。道中、お母さんが体調を崩し、大阪の三男の家で休む。どうも紀子以外の子ども達家族が冷たく、淡々とした表情の両親を見ていると悲しい気持ちになる。

尾道に帰ってまもなく、お母さんが危篤状態に。慌ただしく集まってくる子ども達。医師でもある長男の見立てでは今晩が山だと。そこでわっと泣き出す杉村春子、そうか、もうおしまいかと呟く笠智衆を見て泣きそうになった。

お母さんの葬儀を終え、お父さんが席を外した隙に、両親と住む次女・京子に早速形見分けの依頼をする長女。なんだよ…散々泣いていた癖に。
そして、紀子にもう一晩いるよう指示をして帰京していく子ども達。

翌日残った紀子と京子のやりとりが素晴らしかった。京子の兄、姉への憤りを聞かされた紀子は、そんなものなのよ。歳を重ねた子ども達は、もうそれぞれの世界があるの、と宥める。京子はそんな大人にはなりたくないと。ようやく真っ当な感情のやり取りが聞けた。
そこから笠智衆と紀子のやり取りもグッとくる。早く次の良い人を見つけて欲しい、あなたは本当に良い人だ、とお父さん。血のつながった子ども達よりあなたは良くしてくれた、とも。
やっぱり分かっていたよね、邪険にされていた事。
でもそんな両親からの思いに、私は良い人では無いんです、どうなるのか不安でと泣き出す紀子。初めて本音の感情を出したシーン。彼女なりの苦しみを感じさせる。ここ良かった。

ラストは部屋でぽつんと座る、笠智衆。この画は完璧。背中を丸めて横向きに座る位置も良いし、佇まいの寂しさ。部屋の空間の余白。何も台詞が無くてもお父さんの感情を見事に表している。
近所のおばさんとのやりとり。そして尾道から船が出て終わる。
ここは東京画でも使われていた。

報われる事は無くただ悲しいけれど、ひとつの家族のありのままの時間の流れを、冷静に客観的に描いている美しい映画。

野田高悟、脚本。
小津安二郎、脚本・監督
Monisan

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