たかな

東京物語のたかなのレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
5.0
とてもいい映画だった。涙が出るという強い感動とは別種の、ズシンと心に染み渡る情緒があった。

奥行きというか、奥ー手前関係というか、ショットが徹底されていて映像が気持ちいい。白黒なんだけど豊かな味わいがある。

生きて老いて病みて死ぬ、その時間の流れの中で抗うことやそれでも生きていくことの孤独感と隔たり、深い哀しみ。その一つの象徴としての家・家族・イエ。それは昨今批判されているものだし姿を大きく変えているものなのだけれども、それでいて人と人が擦れ合いながら生きてきた空間のあの居心地の悪さとぽっかり空いたようなノスタルジー。この時代にはもちろん生まれていないのだけれど、哀しい郷愁が確かに感じられる。

そしてやはり「東京」という表象。個人的にどうもこれは色々と思わざるを得ないところがあり、刺さる。「故郷を出る」ことが重かった時代から、今日は大きく状況が変わったけれど、それでもアクチュアルに胸に迫るものが、故郷を出た者としての私の胸中にはあった。

私たちは記憶を忘れたりとらわれたり、改変したりしながらでしか生きていけないし、それは思うようにいかない。過去のしがらみと温もり。そのどうしようもない、「私」だけに迫り来る孤独。

折に触れまた見たい。
たかな

たかな