チッコーネ

情熱の狂想曲(ラプソディ)のチッコーネのレビュー・感想・評価

3.7
天才ゆえに衝突する試練の描写が続く、それなりにドラマティックな作品。
ただ物語よりも撮影の冴えた場面が多々見受けられたのが、印象的。

少年時代の主人公がジャズクラブに潜り込み、演奏に聞き惚れる場面では、ステージ上に据えたカメラによるクローズアップで、トランペットの影だけを巧みに表情へ被せていく。
孤独なトランペットの音色が漂う人気のないダンスホールに、ドリス・デイを歩かせるロングショットには、開放的な叙情が。
ダグラスとバコールが対称となる角度でグラスを飲み干すクローズアップは、構図がシャープだ。
室外設定では背後に据えたスクリーンの前で、役者を演技させた場面も多いが、中には都会の雑踏を活写するロケ場面も。
その雰囲気は作品の主題となるジャズに、よく合致していた。

またコントロール・フリークで気まぐれなバコールのキャラクターは、物珍しい印象を与える。
彼女をレズビアンと捉えた評論家もいるようだが、私には『混乱したエゴマニアで、セクシュアル・アイデンティティを確立できるほど成熟していない存在』に見えた。
ダブルライフを選択する『既婚レズ/ゲイ』の本質は、所詮その程度である。