マヒロ

夜の第三部分のマヒロのレビュー・感想・評価

夜の第三部分(1972年製作の映画)
4.0
ナチス占領下のポーランドにて、妻と子供を殺された男は街中を逃げ回るが、そこで妻と瓜二つの妊婦と出会う。彼女の出産を手伝ったことから二人は惹かれ合い、男は金を稼ぐためチフスの研究所でシラミに血を吸わせるという異様な仕事に就くことになるが……というお話。

アンジェイ・ズラウスキー監督のデビュー作で、彼の父親の自伝を基に作られたお話らしい。どこまでが本当なのかはわからないが、単なる事実の映画化に止まらないズラウスキー印の異様な映画になっていて、デビュー一作目からバリバリに作家性が溢れ出しているのが凄い。

冒頭から家族が殺されるところから始まる飛ばしっぷりだが、展開以上にやたらとリキの入った演出が強烈で、殺される妻の物凄い形相と血まみれの顔のインパクトに、逃げ出した男が荒廃した街中を必死で走り回りたどり着いた先で死んだはずの妻とそっくりの人と出会う場面の異様さなど、なんだか分からんがすごい熱量を持ったシーンの連続はズラウスキー監督ならではのパワフルさがある。ただ、後の『悪魔』とか『ポゼッション』みたいな終始狂気じみた異様なテンションの高さは無くて、比較的落ち着いているので、監督作の中では一番見やすかったかも。

銀色味がかかった画面とカビ臭さが充満していそうなボロボロの街というロケーションがマッチして、この世のものとは思えないような世界観をつくりだしているが、その中でも特に異様なのが前述のチフス研究所の場面。シラミに血を吸わせ、その血を採取することでチフスワクチンを作ろうとしているらしいが、老若男女が狭い部屋に集まり自分の肌にシラミを集らせ、それを切り刻んで血を採取する……という作業は得も言われぬ不快感がある。真っ二つにされて血を吐き出すシラミをドアップで映されるが、それまで画面の殆どが寒色系だったのもあり、虫のグロさと血の赤が鮮烈に印象に残った。

デビュー作にはその監督の全てが現れるというが、まさにその通り自分がこれまで観てきたズラウスキー監督作品で感じたようなものが全て詰め込まれていて、そのエッセンスを存分に浴びられる作品だった。

(2022.213)
マヒロ

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