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狂った一頁のすずのレビュー・感想・評価

狂った一頁(1926年製作の映画)
4.5
無声映画×映像実験×舞踏×和楽器×ドラムス×ピアノ×テルミン?

古典的な和の旋律とノイズ音楽が実験的な映像にクロスオーバーした芸術志向の怪作。原作は川端康成。

1926年(大正15年)製作の日本映画って一体どんなだろう?と興味本位で鑑賞した。兎に角かっこよすぎてビックリした。映画としての趣きもしっかりと残した映像アート。世界的にみても芸術・文化の一つの財産と言えるのではないか。

精神病棟を舞台にした主軸になるストーリーがあって、そこにあらゆる抽象的で突飛なイメージが切り貼りされる事で、難解さも感じてしまう一方で、無声を補って余りある思考や展開のイマジネーションが広がる。声なき声に耳を澄ませ、鮮烈に描写される一コマ一コマが、受け手の中で不協和音や狂気となって膨らんでいく。ただ、無声で無字幕かつ抽象性の高い映像に反して、軸のストーリーをしっかりと追えるというのが、映画としての体裁をバランスよく保っている点で素晴らしいと感じた。そして実験的な映像と対をなすようなサウンド。寧ろ、個人的にはそちらの方がより強い驚きを覚えた。

鑑賞後に少し調べたところ、焼失したとされたフィルムが1971年に発見され、衣笠監督の監修のもと再編集が施された。それが今回鑑賞したものらしい。1926年当時の元版をそのまま観ていると思い込んでいたので、例えばポポル•ヴーだとか、ホルガー•シューカイとか、クラウトロック界隈の前衛的かつ実験的なインプロ、ノイズ系のサウンドアプローチが、大正時代の日本の実験的映画の中で既に鳴らされていた!?という驚嘆と興奮があったのだが、1971年ニューサウンド再編集版ということで実に拍子抜けというか納得した笑。まあ、そりゃそうか。また主観だが本作からノイバウテンと石井聰亙監督の『半分人間』に伝わる影響も想起させられたのが個人的には面白かった。この作品から色々と日独相互のシンパシーを感じる。

1926年当時の状況としても、ドイツ界隈で派生した前衛映像芸術の世界的な潮流に感化されて製作されたものらしい。

精神を病んだ女性の錯乱状態を舞踏で表現するという古典芸能にも通ずるような表現が強烈に刺激的で、純粋に見惚れてしまった。また、壁を背景にして強い光を当てて、人物と色濃い影を並ばせて動作させることで、その者の内なる狂人を視覚化してみせる表現にも感嘆した。

いま流行りの〝クールジャパン〟よりも以前にあった〝東洋の神秘的な島国〟という、西洋から見た日本の謎に包まれた魅惑的なイメージを強烈に印象付ける一端を担ったのは間違いないと思う。

不思議と自分の琴線に触れる作品でありとても楽しめた。今作にも正確な見方なんてものは無いとは思うけど、解釈の一助になる位の予備知識やあらすじを入れてから観た方が、遠回りせずに観れたかなと思ったけど、鑑賞後の興奮のまま、いろいろと調べてお勉強になった笑。文ながっ。(わざわざ読んでくれた方、長々すみませんでした😂)
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