CANACO

フットルースのCANACOのレビュー・感想・評価

フットルース(1984年製作の映画)
3.4
こんなにケビン・ベーコンが踊る映画だと知っていたら、もっと早く見たのに!

『フラッシュダンス』のエイドリアン・ライン監督調の明暗が効いた照明の中、むっちゃ踊って鉄棒に飛びついて大車輪まで繰り出すケビン(のような人)が見られる『フットルース』、さすが出世作。スタントが入っているのは明らかで事実だけど面白い。

「MTV感覚」という言葉が、今でいうトレンド入りした1980年代。アメリカのミュージックビデオ専門テレビ局MTVが1981年に開局して以降、音楽×映像の見せ方が大きく変わった。その波は映画界にまで及び、パラマウントはMTV感のある映画を製作。それが『フラッシュダンス』(1983)で、第2弾が本作。サントラも売れに売れ、両作は商業的に大成功をおさめた。その後同社が送り出したのが、『フラッシュダンス』と同じプロデューサーのドン・シンプソンとジェリー・ブラッカイマーによる『トップガン』(1986)だった。

本作は、イリノイ州のシカゴからアメリカのユタ州にある(架空の町)ボーモントに来た高校生レンが、ダンス禁止という決まりをなくすために町に立ち向かっていく物語。ヒロインのアリエルはメンヘラ気味の印象。『フラッシュダンス』『危険な情事』(1987)のアレックスとか、『ベティ・ブルー』(1986)とか、80年代はメンヘラ女性がよく出てきた時代だったのだろうか。

参加したミュージシャンは、各場面のイメージに合わせて曲作りをしたらしい。世代でかつ本作未見だったら、『スクール☆ウォーズ』でもお馴染みの『Holding Out for a Hero(ヒーロー)』のオリジナルがこのシーンのために作られたという衝撃で笑えると思う。すごく唐突。

Apple Musicによるとサントラは900万枚以上売れたそう(どんだけ)。ケニー・ロギンスが歌うタイトルナンバーは全米第1位を獲った。彼は『トップガン』の主題歌「デンジャー・ゾーン」も歌い、こちらも大ヒットしているが、全米シングルヒットチャートは第2位という結果に。

世界は全然『フットルース』のケビンを忘れていないらしく、30周年を迎えた2014年3月には、米NBCの『ザ・トゥナイト・ショー』で(本作終盤の)ダンスをケビン本人が再演。2017年にはイギリスのApple MusicのCMでブリトニー・スピアーズと共演。ここでもフットルースダンス、というかステップを披露している(YouTubeで見られる)。この時でケビン58歳くらいのはず。この笑わせる気満々のCMにも出てくれるなんて、やっぱりケビンはいい人に違いない。

当時26歳で、完全な青春映画の高校生ヒーロー役を演じたケビン。クセのある役を演じることが多い彼だが、本作の序盤、女性と車でした話を同級生に聞かせるシーンが(下衆という意味で)すでに上手すぎて、片鱗をのぞかせている。ケビン・ベーコン主演じゃなかったらたぶん見なかった作品だったが、楽しかった。見てよかった。




◻︎背景
ネットによると、アメリカ中南部にあるオクラホマ州エルモア・シティで起きた実話をベースにしているとのこと。アルコール中毒防止のために1898年にダンスを禁止。高校生がプロム開催に向けて町議会に訴えを起こし、1981年にその条例が撤廃されたという。

映画の舞台になったユタ州には、末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教)の本拠地がある。戒律が厳しく、「勤勉を奨励し、飲酒・喫煙を禁じるなど質素で堅実な生活習慣を旨としており、こうした宗教的信条が州経済の繁栄を導いたとする誇りは揺るぎない」(在〈コロラド州の〉デンバー日本国総領事館HP「ユタ州事情」より)そう。

ユタ州はアメリカ中西部にあるが、アメリカ東部から南部にもまだ禁酒郡または禁酒地域がたくさんある。ユタ州だけで日本の本州とほぼ同じ面積があるので、州といってもほぼ国。レンが別の国に来たような感覚になっても無理はない。

◻︎メモ
ハーバート・ロス監督作品。のちに『摩天楼はバラ色に』(1986)、『マグノリアの花たち』(1989)を撮る。
CANACO

CANACO