櫻イミト

にんじんの櫻イミトのネタバレレビュー・内容・結末

にんじん(1932年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

デュヴィヴィエ監督が1925年に制作したサイレント版をトーキー版としてセルフリメイク。日本でのデュヴィヴィエ・ブームの幕開けとなった一本。1934年(昭和9年)キネマ旬報ベストテン第三位。ちなみに第一位は同監督の「商船テナシチー」(1934)。

少年フランソワは赤毛とそばかすのため家族から“にんじん”と呼ばれていた。両親は不仲。父親は無口で、母親は兄と姉だけ可愛がり彼をさげすんでいた。小間使いのアネットや村の教父、幼馴染の女の子マチルドとは親しくしていたが彼の孤独感は消えなかった。自問自答を繰り返し、ついに彼は自殺する決意をする。。。

有名な古典としてタイトルは知っていたが内容は知らなかった。思春期の少年が親からの愛情を受けられずに自殺に走るという衝撃的な内容に驚いた。少女の自殺は「少女ムシェット」(1967)などいくつかの作品があったと思うが、少年の自殺はちょっと思いあたらない。未遂で終わったのがまだ救いだった。

精神的ネグレクトだけではなく、そもそも人の親だからと言って完璧な人間ではないことを前提に描いているのが興味深い。家族についての様々な示唆が含まれた文学的な内容で色々と考えさせられた。二重露光を用いた自問自答シーンなど映像の工夫も凝らしていた。

主人公を演じたロベール・リナン(当時12歳)の芝居が上手だった。丸裸で嬉しそうに川遊びをしていたのが印象的。悪気の無い少年らしさがあり、それだけに強がりが痛々しかった。

昭和9年、日本人の多くが本作で初めてフランス映画に触れたとのこと。以後数年にわたってデュヴィヴィエ監督ブームが続いた事も納得できる、普遍性を持つ名作だと思う。

※主演のリナンが成年を迎えた時、フランスはナチス占領下に置かれていた。彼はレジスタンス運動に身を投じたが、ナチスに捕えられ拷問を受け、1944年に射殺された。享年23歳。
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