たく

にんじんのたくのレビュー・感想・評価

にんじん(1932年製作の映画)
3.7
愛のない家庭で孤独に暮らす少年の苦悩を描くジュリアン・デュヴィヴィエ監督1932年作品。調べると、自身が監督した1925年のサイレント映画のリメイクとのこと。原作はたしか子どもの頃に世界名作童話全集みたいなのに収録されてたのを読んだ記憶があるけど、こんなハードな話だったとは今更ながらに驚く。フランソワを演じたロベール・リナンの寂しさと空元気が入り乱れる演技が素晴らしく、レジスタンス運動に加わって23歳で亡くなったと知ってショックを受けた。

冒頭、新しい使用人として雇われたアネットがルピック家を訪問するシーンで、道を聞かれた男がルピック夫人の性格を紹介するくだりが学校にいるフランソワの会話とつながる編集が秀逸。フランソワは髪の色から「にんじん」というあだ名を母親につけられて、周囲からもそう呼ばれてる。彼はどうも望まれて生まれてきた子ではないらしく、母親からは日々こき使われて暴力も振るわれてて、鈍い父親はそれに気付かず息子とのコミュニケーションもあまりなく、逆に兄姉は両親から大事にされててフランソワの居場所が無いのが余りに酷い。

孤独なフランソワに対し、アネットだけが彼の素直な心を知ってて唯一の仲良しみたくなるんだけど、やっぱり親から愛されたいよねってことで、人生に絶望して自殺しようとするフランソワ(ちょっと「少女ムシェット」を連想)の孤独にようやく気付いた父親がさあどうするかっていう展開。母親がどうしてあんなにフランソワ虐めに執着するかが今一つ分からないんだけど、彼女は彼女なりに孤独で、息子をいじめることで精神のバランスを保ってるんだね(身勝手すぎる)。彼女が改心するのではなく、フランソワが父親の導きによって名実ともに生まれ変わるという幕切れは、ほろ苦いけどなかなか味わい深い。
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