近本光司

ワイルドバンチ/オリジナル・ディレクターズ・カットの近本光司のレビュー・感想・評価

3.5
サム・ペキンパーがしばしば完璧主義者と評される所以がよくわかる。終盤に待ち受ける高低差のある砦で繰り広げられる血みどろの銃撃戦は、目まぐるしくカットが切り替わり、いまやペキンパーの作家印としてあまりに有名なスローモーションが多用されている。一方で音声はといえば、映像とは異なるレイヤーで戦闘の烈しさを証立てる。スローモーションで銃撃を受けた人が血を噴き出して倒れる映像に、等速で銃声(とりわけ機関銃の連射)が重ねられる。この絶妙なバランスで成立する映像と音の組合せは、ひとつ間違えればまったく要領を得ないものになるであろうから、ここだけでも編集にあたってどれほどの労力が費やされたかを想像するに難くない。
 そのように『ワイルドバンチ』でいくつか用意されている戦闘のシークエンスをひと目見れば、ペキンパーの完璧主義はただちに諒解されようが、しかしあくまで趣味の問題としてわたしの気には入らなかった。そもそも西部劇で描かれる男の浪漫に乗り切れないという心理的な距離感もあるのだが、なによりも、あれだけ凄まじいショットを撮っておきながら、なぜそれを編集でずたずたに切り裂いてしまうのだろう、という身も蓋もない疑念を振り払うことができないのである。橋に仕掛けたダイナマイトで馬に乗った追手の面々を爆破し、馬もろとも川に落下するシーン。あれが限界だったのかもしれないが、ワンショットで収められていたとしたら、どれだけすごかったか(たぶん不可能なのだが)。
 南部テキサスからメキシコへ。荒くれ者の賞金首たちは、追手をかわしながら、メキシコの革命一派の依頼を受けて米軍の輸送列車から武器を掠奪する。こうした筋書や設定に『七人の侍』などからの影響は一目瞭然だが、わたしがむしろ較べてみたいと思ったのは、この作品の二年前に撮られた『殺しの烙印』。鈴木清順はサム・ペキンパーより二つ年長で、いずれも「美学」というよくわからない概念で評されることがおおい監督である。おそらくは同時代ならではのリズムにたいする感覚と、ワンシーン・ワンショットとは別の仕方で完璧主義を追究した姿勢に通底するものがあるように感じた。