櫻イミト

暴君ネロの櫻イミトのレビュー・感想・評価

暴君ネロ(1932年製作の映画)
4.0
デミル監督の”聖書三部作”「十誡」(1923)、「キング・オブ・キングス」(1927)に続く第三弾。原作戯曲「十字架の徴」(1895)は同年の小説「クォ・ヴァディス」の非公式の改作とされ主人公はネロではない。助演に「或る夜の出来事」(1934)でヒロインを演じるクローデット・コルベール。

西暦60年のローマ。残虐非道の皇帝ネロ(チャールズ・ロートン)はキリスト教を憎むあまり、ローマの街を燃やし犯人をキリスト教徒になすりつけた。教徒殺害が行われる中、ローマ軍の長官マーカス(フレデリック・マーチ)は教徒をかばう娘マーシアと出会い目をかける。これを知ったネロの愛人ポッペア(コルベール)は嫉妬の炎を燃やし。。。

絢爛豪華で悪趣味な要素を強く打ち出している。デミル監督の魅力の一つである見世物性という点ではベスト作。後の東映エログロ路線の元祖と言えるし、すなわちタランティーノ監督作の先駆である。

終盤にコロシアムで開かれる残虐処刑ショーは、大衆の眼前でキリスト教徒を猛獣に殺させるという猟奇的なもの。とどめの直接描写は避けられているが、多数のライオンやワニ、ゴリラ、象が放たれたコロシアムに人間が入場させられていく描写がおぞましい。だからこそラストシーンがインパクトを放っている。コルベールの牛乳風呂入浴シーンも含めて、プレコード最後期でなければ実現できなかった演出だ。

美術・衣装が「キング・オブ・キングス」に続いて素晴らしい。美術監督は両作ともミッチェル・ライセンという人物で、「バグダッドの盗賊」(1924)などダグラス・フェアバンクス作品の美術・衣装で知られている。

ネロを演じたチャールズ・ロートンは出番は少ないが、暴君の尊大で不気味な雰囲気をすわった目で演じていてインパクトが強かった。そんなネロを言いなりにさせる愛人を演じたコルベールも悪女のオーラを漂わせていた。本作での好演が認められ同監督の「クレオパトラ」(1934)主演に抜擢、次いで「或る夜の出来事」主演でスターの座を確立することになる。

映像もクレーンカメラを効果的に多用している。終盤にはカメラが屋外から鉄格子をくぐりぬけ地下室の人物ワンショットまで持っていくミラクルショットがあった。トーキー初期のフランス詩的リアリズム「巴里の屋根の下」(1930)などでは街角から室内へのクレーンワークがあったと記憶しているが、本作のように地下に降りていくカメラは初めてかもしれない。

”聖書三部作”はどれも完成度が高く、巨大な製作費と興行的成功の面から見てもデミル監督全盛期の代表作群と言える。現在ではあまり知られていないが再評価されるべきだと思う。

※ドライヤー監督映画に観られるエンドクレジットの十字架シルエットが早々と使われている。
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