イペー

カポーティのイペーのレビュー・感想・評価

カポーティ(2005年製作の映画)
3.7
母に捨てられ、不遇な少年期を過ごしたカポーティ。心に抱える空洞を、嘘とジョークで塗り固め、括弧に入れる能力を磨いてきた。
やがてその能力は小説として結実し、彼の作品に対する賛辞の声や、彼の洒脱なホラ話で上がる笑い声が、彼の孤独を慰めてくれたのかもしれない。

カンザスで起きた一家惨殺事件。初めは今まで通り、作家としての自己を保つため、良いネタを見つけたという程度の気持ち。
ところが、自分と似た境遇で育った殺人犯ペリーと狭い独房の中で向き合うとき、彼は自分の辛い過去とも向き合うことになる。
一方でペリーはカポーティの小説が、自分を救う糸口になると信じ、自分に寄り添うカポーティを信じてもいる。
しかしカポーティは冷酷にペリーを欺き続ける。
何より小説の完結にはペリーの死が必要で、隠していた本心を、彼の死と一緒に虚構の中に封じ込めてしまいたかったのだと思う。
フィクションの力に頼らざるを得なかったカポーティの苦悩と切実さがそこにはある。

死刑執行に向かうペリーに面会するカポーティ。涙は浮かべても、死にゆく者にすら真情を語れない彼の姿は憐れ。そしてカポーティの真実を悟っても、何も語らず死んでゆくペリーの姿は悲しい。ペリーはカポーティの罪と嘘を、背負っているのか、背負わされているのか…。


…言葉少ない映画なので、カポーティの複雑な心境を、彼の微妙な表情の変化から自分なりに必死で読み取ろうとして以上のレビューになりました。
演じたフィリップ・シーモア・ホフマンは既に帰らぬ人。この映画での演技について語ってくれる機会もないので、自分の解釈も全然違うかもしれません…。
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