ちぢみりゃんまち

カポーティのちぢみりゃんまちのレビュー・感想・評価

カポーティ(2005年製作の映画)
3.4
 「ティファニーで朝食を」でその名を不動のものにした小説家のカポーティは次なる新ジャンル、ノンフィクション小説を開拓すべく、カンザス州のど田舎で起きた一家殺人事件を追う。その中で、生い立ちや境遇が似た犯人の1人に強い魅力を感じるようになり、彼への取材を通じて執筆を進めていくよう考える。
 小説というのは現実の中にありながら作られた虚構である。読者に強い感情移入させ、彼らの思い通りのストーリーを描き、強いカタルシスを与えることで読者に面白いと思わせるものだ。文豪カポーティにはこのノンフィクションというジャンルにしても、予めストーリーが出来ており、例えば、犯人から事件の夜の話を聞かずして、事前に題名『冷血』を決めてしまう。言わば事件を知らずして世間の求めるイメージを描こうとしているのだ。
 取材対象の犯人には「友達」として近付きながら、明らかにカポーティの中では作品の為の利用品であり、後になるにつれ、この二重性がカポーティを苦しめるようになる。
 本作はこのカポーティが取材対象に話術で巧妙に入り込んでいく様、ストーリを通じて変化し、苦悩していく心境をフィリップ・シーモア・ホフマンの名演を通じて愉しむというのが醍醐味である。