カタパルトスープレックス

非常線の女のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

非常線の女(1933年製作の映画)
2.9
小津安二郎監督の戦前のギャング映画です。『朗かに歩め』(1930年)、『その夜の妻』(1930年)に続く三作目。小津の戦前ギャング三部作のラスト。

小津康次郎のギャング映画の特徴は徹底した洋風小津好み。日本を舞台にしているのに、ヤクザ映画ではなくギャング映画になる。そして、ヤクザものとカタギものの間で揺れる主人公を描きます。ただ、この頃になると洋風の小津ごのみも控えめになっていきます。本作の評価は戦前の小津ごのみによるファンタジーを楽しむか、戦後の和風な家族を中心としたドラマを楽しむか。この二つの視点のどちらを取るかによります。

主人公の襄二(岡譲二)と時子(田中絹代)がヤクザものを演じます。田中絹代はこれまでの小津作品では清楚な役を演じてきたので、チャレンジな役柄となります。これまでヤクザなモガを演じてきた伊達里子と比べると、田中絹代は二面性のあるなかなか深みのある役柄を演じています。それに比べるとヤクザものな男を演じる岡譲二はこれまでの『朗かに歩め』の高田稔や『その夜の妻』の岡田時彦と比べると深みが足りない。そのため、ドラマとしては中途半端な印象を受けてしまいます。

そして、カタギを代表する清楚な女性、和子を演じるのが水久保澄子。『朗かに歩め』であれば川崎弘子『その夜の妻』で言えば八雲恵美子の役割です。ただ、前二作と比べると水久保澄子が演じる清楚な和子はきっかけを与える端役にすぎない。田中絹代の映画なんですよね、本作は。そういう意味ではバランスに欠ける。

小津の戦前ギャング三部作であれば洋風な小津ごのみが炸裂している『朗かに歩め』が一番好きかなあ。本作は過渡期の小津安二郎を「お勉強」するためにはとても良い題材であるとは思いますが。