フッカー

西部戦線異状なしのフッカーのレビュー・感想・評価

西部戦線異状なし(1930年製作の映画)
3.8
始めに、自分が見たのはデルバート・マン監督が1979年にカラーで撮ったリメイク版。Filmarksにそのリメイク版がないため泣く泣くこっちにレビュー。

何という虚しさであろうか。
冒頭で映し出される「死は冒険などではないからだ。」という文字。

第一次世界大戦時でのドイツ、教育は若者を兵士にする。
戦地へ赴き勲を上げることが称賛され、若き鉄人達と囃し立てられ、学校を卒業したばかりの若者達は意気揚々と向かうのだ。戦場へ。若者というより少年か。

待っているのは、疲弊、極貧、殺し、爆発、恐れ、そして死。
これまで勇ましく戦場で戦い死ぬことが誉れと思っていた若者達の価値観は一気に崩れ去る。
だが逃げることは出来ない。

錯乱し塹壕の中から飛び出してしまうもの、連夜続く爆発に耐えきれず頭を抱えうわ言を繰り返してしまうもの、目の前で起きた友の死を受け入れられず死体に駆け寄り自らも死んでしまうもの。

簡単に人は死んでしまう。
そこに区別はない。死んだ兵士A,B,C.....
一人一人の人間の人生など関係ない。ただ兵士であるというだけ
塹壕に隠れじりじりと歩を進める歩兵戦が多い西部戦線の惨状。
ああ、もうやめてくれ。
物のように、ごろごろと雑に捨てられる死体が、そうして築かれた死体の山が、脳裏に残る。

古参の兵士カチンスキーが彼ら少年達の師であり、父親のような存在
そうして少年達を育て上げても一人また一人と死んでいってしまう少年らそれを見続けるカチンスキー。

古い作品であるためか視覚的にグロくはない。
だが6人組で夢を語っていた彼らが次々と死んでいってしまうのは....


凄く印象に残るのは、怪我による療養休暇でポールが実家に戻る場面。
高らかに戦地の士気はどうだ、こうして戦術を立てた方がいいなどと偉そうに語るジジいども。
ポールが感じる温度差。

だがついこの前まで彼もあのジジい達に近い視点で物を見ていたはずだった。その教えにそこまで疑問は抱いていないはずだった。
だからこそ彼が自室で書く手紙には胸に込み上げてくるものがある。

詩が好きで美しい景色に気づきよくスケッチする感受性豊かな彼はこうも変わってしまったことが、手紙の中の文章に表れる。

少なくとも戦場に行くまでは彼は、周りの世界の美しさに気づき本の中の言葉に心揺らされるただの少年だったのに!!!

「西部戦線異状なし」
異状ではない、それがここでの通常。
元の映画は1930年公開。第二次世界大戦へと歴史の針がこの後進んでしまうことが心を更に締め付けてきた。