Ricola

真人間のRicolaのネタバレレビュー・内容・結末

真人間(1938年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

一見ただのデパートに社内恋愛している男女と見えるが、実は前科者たちに社会復帰および更生への手助けとなるようにと、社長が雇ったうちのふたりなのだ…。彼女は自身の経歴を知られることを恐れながら男と付き合い同棲を始める。そんななか、男は昔の悪い仲間から自身の勤めるデパートに強盗の計画を持ちかけられる。

犯罪はどうしても同じ人物によって繰り返されうるということ。説教じみた筋書きではあるが、まさに説教シーンが作中に出てくるため、そこがむしろ味となっておりこの作品の肝になっている。


ヘレン(シルヴィア・シドニー)とジョー(ジョージ・ラフト)は結婚をする。ふたりで新婚旅行代わりにさまざまな国の料理のレストランに食事へ出かける。世界一周旅行をしている気分だと二人は喜ぶ。ただ、心から幸せな時間も束の間、二人をどん底へと手招きする者が現れる。
愛する人には全てをさらけ出すものだと思うジョーと、愛する人には失望されたくないから嘘を突き通したいヘレン。二人のこうした認識の違いもまた、溝を深めてしまう。

ジョーは昔の仲間たちと久しぶりに会い、彼らと刑務所にいたときのことを思い起こされる。壁や鉄柵を鳴らしてコミュニケーションをとっていた頃を。ひと気のない牢獄の廊下が徐々に浮かび上がってくる。ジョーがその音の輪に入ってくると、そのリズムのまま、昔の仲間の連帯感がまた戻ってきたように、彼らはジョーを誘う。さらにジョーの返答を利用して彼らは歌い始め会話を続けていく。まるでミュージカルのような陽気な演出は、ジョーのこのときの心情とは全く相反するものである。

ヘレンはジョーたちの強盗計画に気付き、デパートの支配人らの前で晒した上で、犯罪は割に合わないと説く。ヘレンが以前どんな犯罪をおかしたかは明かされないが、細かい計算をもして論理的に犯罪の無意味さを彼らに訴えるのだ。ジョー以外の仲間たちはその話を素直に聞き入れる。ジョーはヘレンの嘘をその前に知っているため、彼女を受け入れることができていないことがわかる。

犯罪云々という以上に、目の前のことだけに囚われると本当に大切なものを失いうるということ。犯罪サスペンス作品というよりも、恋愛ものでヘレンとジョーの愛が育まれていく過程が描かれていた。
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