スギノイチ

プレステージのスギノイチのレビュー・感想・評価

プレステージ(1976年製作の映画)
3.7
導入部、どこかのホテルで写本の取引を行っているアラン・ドロンだが、隣室のベッドから裸の女が現れて取引相手の目の前でいちゃつきだす。
事後トークと取引を同時に行うという過剰なマルチタスクからこの主人公の異様さがよく判る。
とにかく一分一秒でも美術品をかき集めていたいらしく、食事の時間さえ凄まじく速い。
「金や物質はどうでもいい。駆け引きが好きなんだ。
買う瞬間…売るのは面白くない、俺が興味あるのは買う瞬間だ。」
収集癖なんて言葉じゃ表現しきれない。狂気スレスレの生きざまだ。
こんな男だが、とにかくまあモテる。
アラン・ドロンだからというのを差し引いても、これほど命を燃やす男が近くにいればそりゃ魅力的だろう。

アラン・ドロンに流れる時間と周囲の人々の時間のズレは、物語が進むにつれてどんどん大きくなっていく。
美術品の管理者が金庫のカギを回す数秒にさえ耐えられずに「手伝おうか?」と半ギレしている辺りから加速し始めて、妊娠中のミレーユ・ダルクに「もっと早く産むことはできないのか。」などと言いだして三行半をくらう頃はもう手遅れ。
産まれた息子と対面しておけば止まるチャンスがあったかもしれないが、それでも主人公は止まらない。
息子がいる病院のドアを開けたが最後、魂が停滞してしまうとでも思ったのだろう。
あそこでドアを開けていれば、全く違った未来があったかもしれない。

アラン・ドロン以外の出演者も良い具合に雰囲気が出ている。
相棒役のミシェル・デュショーソワは主人公以上の切れ者で、たまに喧嘩しつつも尻拭いとフォローをきっちりこなしていて、駄々っ子なアラン・ドロンの保護者にも見えてくる不思議な関係だ。
ヒロインのミレーユ・ダルクはミステリアスな色気があるものの気を抜くと研ナオコに見えてしまってどうもよくないのだが、妹役のモニカ・グェリトーレが凄くいい。
誰もが予想する通りアラン・ドロンに恋してしまうのだが、その動機が主人公の魅力そのものを謳っているところがまたいいのだ。
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