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ラルジャンのHALのレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
5.0
ロベール・ブレッソンは去年劇場で『たぶん悪魔が』と『湖のランスロ』を観たきりだった。どちらも凄かったが、同時にこの映画をどう観ればいいのだろうと思ったのも事実だった。暗く、辛く、夜がそこにあり、足音や金属の擦れ合う音が響く……カッコいい映画だとは思ったが、それ以上は言葉にならなかった。

『ラルジャン』は映画史上最も重要な作品の一つ、というような前評判を聞いていたので、Amazonで1500円のBlu-rayを見つけて思わず購入した。ポール・シュレイダーの『MISHIMA』みたいに寝かせるのは嫌だったので、思い切ってすぐ観たが、これもまたわからず、わからないなりに打ちひしがれてしまった。

大したことは何も起きていない、どこかに重大な悪人がいるわけでもない、しかし世の中の悪意が少しずつ一枚の偽札に擦り付けられて、一人の男の人生が破滅する。恐ろしいのは、どこが原因か、何が悪かったのか、ここで引き返すべきだった、というような「地点」がどこにも見つけられないことだ。あたかも映画自体が精巧な偽札のように、映画を観る人の視線をくぐり抜けていく。映画が現実を模倣している?起きている出来事は明確なのに、不運や過ちや原因は掴み取ることができない。書いていて思ったが、これは83分に纏められてしまった『ベター・コール・ソウル』(自分の生涯ベストドラマ)だったのかもしれない。なんて恐ろしい映画だろうか。最も恐ろしいのは、この映画が現実と見分けがつかないところだ。

そういえば、この後で観に行ったカウリスマキ監督の『枯れ葉』に登場する映画館の入り口に大きく『ラルジャン』のポスターが貼ってあった。『枯れ葉』もまた不運や悲しみが不意に転がってくる映画であった。しかし……
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