マヒロ

ラルジャンのマヒロのレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
5.0
(2024.1)
小遣いの無心を親に断られた少年は、友達に唆されて贋札を使ってカメラ店で買い物をする。まんまと騙されてしまったカメラ屋の店員は、それを手放すためにたまたま店に来た燃料配達の青年イヴォンに代金として渡すが、それが彼の運命を変えていくことになる……というお話。

偽札で買い物をした少年、それを隠そうとする店……と、ほんの少しの悪意が一人の青年を不条理なまでの不幸に巻き込んでいく様を描いている。
ブレッソン監督というと『抵抗』がめっちゃ好きで、必要最低限の描写で脱獄という行為を見せるストイックな作風に痺れたんだけど、遺作たる今作ではその手法が極まりきっており、無駄な演出、カット、音楽、演技などを一切排除した恐ろしくシャープな作品に仕上がっていた。全カットで正解を叩き出すみたいな正確無比なつくりにとにかく圧倒されっぱなしで、80分ちょっとという短さとは思えないほどの満足感があった。

強盗の場面では空っぽの金庫と鳴り響く警報を映したり、殺しの場面も血まみれになった手を洗うところしか見せなかったりと、基本的に決定的な何かは画面に現れずその前後の部分しか見ることは出来ないんだけど、その無慈悲なまでのテンポの良さがとにかく心地よい。気を衒って見せるべきところを切っているとかではなくて、本当に必要なところだけを知り尽くしてそこを的確に映し出しているという感じ。
俳優の顔もあまり画面に現れず、何か行動を起こす時は手先が映ることが多く、セリフとか表情以上に雄弁にその人の動きを物語っているようで、そこはかとないフェティッシュさを感じるそのこだわりもまた良かった。画面のコントロールがとにかく徹底されていたからなのか、終盤で田舎に舞台が移った時、それまで都市部が舞台で無機質なものしか出てこなかったので、草花が風で揺れるところを見ただけで何か異質なものを見た感じがしてギョッとしてしまった。

分かりやすい説明がある映画ではないが、だからといって難解な訳ではなく、最もシンプルな形で物語を作り出すという究極の職人技みたいな作品で、とにかくその技に酔いしれてしまうような作品だった。
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