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ラルジャンのpikaのレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
5.0
マジでヤバい。心の底から震えた。
ブレッソン監督の妥協なき徹底したシネマトグラフの削ぎに削ぎ落とされた個性、1で100伝えるくらいの行間が観客の想像を駆り立て個々の脳内で完成させてしまう完璧な簡潔さに痺れて泣けた。

音を映像にではなく映像に音を慣らす、と語るブレッソン監督の音へのこだわりは、人が目よりも耳で物事を捉えるという認識行動そのものを映画で表現し尽くし、作り手の意識や感情を一切乗せずただシンプルに物語を表現させ、目で受けたものを耳で聞いた時に映画の出来事の中に現実を感じ身の回りにあるようなリアルな感触を味わう。
こんな挑戦的で素晴らしい完成度の映画が存在し出会えたことに天を仰ぐ!

全てのシーンが完璧で、手を洗うだけで、犬が吠えるだけで、ランプが倒れるだけで理解出来てしまう無駄な贅肉が一切ない凄さ。
人はだいたい人物の肩から下あたりしか見ることはなくよっぽどの美人や知り合いではない限り人の顔を見ないからと足元や手元を映すカメラワークは、誰か特定の視点というわけではなく俯瞰で表現する人の目であり、音を物理的ではなく主観的な意識として聞こえてくるよう絶妙に切り取りその場で鳴らすのはまさに人の耳だ。
映画という隔絶した世界のフィルターを真っさらに取り除き、ダイレクトに入るリアリズムが見た人それぞれの中にそれぞれの感情を生む、まさに映画でしか表現ができない比類なき傑作。
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