つるみん

ラルジャンのつるみんのレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
3.8
芸術を超越した芸術を描いてきたブレッソンの遺作。

名作と呼ばれるものには必ず監督の世界観が蔓延していて、理解出来る出来ない以前にその世界観を体験した事にまず大きな意味があると思っています。

その1人がロベール・ブレッソン。
徹底的に抑制された表現であって、普通マスターショットで全体図を見せてからクロースアップなどで切っていくのにも関わらずブレッソンは最初から被写体の一部だけを映すといった非常に独特な撮り方をしている監督です。本作で言えば、手・足などの一部を印象的に映すショットが目立ちました。だからこそ、ブレッソンの描く表現技法にどこか違和感というか独特な世界観を味わう事が出来るのです。

そして抑制された表現はカメラワークだけではなく音楽もそうで、劇中に出てくるピアノの音楽は流れますがバックグラウンドとして流れる音楽は一切ありません。したがって劇中の物音が際立ち、よりリアルな描写となっていました。

そして肝心な内容は、
ブルジョワ少年が偽札を使った事から始まり、人の手に渡り、その偽札は主人公イヴォンに。イヴォンは何も知らずに偽札を使ってしまったが警察に捕まり告発され失職してしまう。不運にも偽札をつかまされたことからすべてを失う青年の姿を不条理にも悲劇的に変わっていくようすをリアルに描いている作品。

お金は人間を良い人にも悪い人にも出来るパワーを持っています。
1つの過ちが重なり合って1人の人間を壊していく。伝染したかのように悪に染まっていくその姿はまさに黒沢清作品で個人的に1番好きな〝CURE〟に酷似しています。あるワンシーンについては前作の〝たぶん悪魔が〟のパクリだろうけど似ている雰囲気を醸し出しているのは確かでしょう。
本作の場合はその負の連鎖のファクターは〝金〟です。人間の欲が溢れ出ています。
そんな〝金〟の欲求をも通り越してしまった人は果たしてどうなってしまうのか?

ブレッソンの雰囲気をもっと言うならばアキ・カウリスマキやジム・ジャームッシュらの独特な描写はブレッソンを参考にしているのかもしれません。
それほど斬新でお手本のような作品と言えるのは確かでしょう。

ブレッソン自体、ヌーヴェルヴァーグ時代には〝抵抗〟や〝スリ〟などといった作品を撮っていますがどれもヌーヴェルヴァーグに囚われない独自の雰囲気を貫き通していて、その雰囲気が死ぬまで続いた証拠ともなる本作はやはり大事な1本であると言うことは間違いありません。
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