梅田

ラルジャンの梅田のレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
4.2
同じくブレッソンの『スリ』もそうだったと記憶しているが、人ではなく動作だけを淡々と写しとって繋げていく(首から上を写さない)。演技も同じで、演者はみな生気のない棒読みで与えられた台詞を口にし、指示された動作をこなすだけで、この映画には一切の笑顔は登場しない。心情描写は極端に省かれている。
例えば、ワイングラスを1mの高さから落としたら粉々に割れてしまうという因果と、不合理に投獄され自棄になってさらなる罪に手を染めてしまうという因果があったとして、この2種類の因果的結合の強度は同じではないはずだ。この映画がやっているのは、その強度を等価のものとして描くということだと思う。それを「運命」などと言ってしまうとあまりに乱暴な気もするが……。
主人公イヴォルは、終盤に登場する中年女を、その生活から解放する。これは義賊の真似事をしている窃盗団とパラレルなのだと2回目を観終わって気付いた。善と偽善の境界だとか大文字の幸福論だとか、そう簡単に解釈を許してはくれないが、何度でも見返したい映画だと思った。
梅田

梅田