マヒロ

戦場のメリークリスマスのマヒロのレビュー・感想・評価

戦場のメリークリスマス(1983年製作の映画)
3.5
第二次大戦中のジャワ島にて、日本兵の軍曹ハラ(北野武)と英国人捕虜のロレンス(トム・コンティ)、収容所長のヨノイ(坂本龍一)と輸送隊の襲撃により捕まり捕虜となったセリアズ(デヴィッド・ボウイ)の二組の奇妙な交流を描いたお話。

戦地が舞台とはいえ、女性キャストが一人も出てこないという男だらけの映画だが、そんな中で前述の二組の間で友情とはまた違った関係が構築されていく。
ヨノイは初対面からセリアズに明らかに惹かれており、最初から物凄い表情でセリアズを眺めているし、常に特別扱いしようとしたり、セリアズが収容されてから捕虜がビビるくらい剣道の稽古に不自然にリキが入ってしまったりとめちゃくちゃ態度に出てしまっている辺りがなんともいじらしい。
ただ、序盤でオランダ兵を強姦した日本兵が切腹まで追い込まれていたように、男色というものが完全なるタブーとして扱われていた環境において、セリアズへの好意をあらわにすることはそれだけで信用の失墜を意味するわけで、常に感情がギリギリの綱渡りのような状態になっている。セリアズはそれに気付いているようで、あえて挑発するような態度をとるんだけど、デヴィッド・ボウイのどこか浮世離れした存在感も含め、軍隊の中の凝り固まった価値観を破壊しにきた精霊のような不思議な存在のようにも見えた。
友情ともなんとも言えない関係となるハラとロレンスの二人もそうなんだけど、戦争ではない別のきっかけで出会えていたら……と思えてくるし、その戦争の緊張感が一瞬だけ解けるクリスマスの場面は儚い楽しさがあった。

ハラを演じたたけしとヨノイを演じた坂本龍一はどちらも当時演技素人だったみたいだけど、割と悪くなかった。たけしは後の作品と同じような感じでぶっきらぼうなオヤジが既に板についてるし、坂本龍一もここぞという場面の表情の演技が良かった(喋りが若干グチャッとするところは気になるが)。
有名な「メリークリスマス、ミスターローレンス」のセリフの場面も、たけしのあの独特の、人懐っこさとその裏にある狂気が同居したかのような顔つきだからこそ出た味のあるシーンだと思った。
何となく、この二人のある種の「拙さ」があるからこそ作品に唯一無二の個性が生まれたんじゃないかなぁという気がする。

(2021.52)
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