このレビューはネタバレを含みます
戦争における集団意識と個人意識との差にやるせなさを感じていた。戦争と切り分けられないであろうこのテーマについて、戦争を経験した世代はどのような思いを抱いているのか、気になって視聴した。
原作はローレンス・ヴァン・デル・ポストの短編小説「影さす牢格子」と「種子と蒔く者」。作者自身のジャワ島での日本軍俘虜収容所での体験が綴られている。
集団の意思が個人の意志を黙殺して、まるで集団の意思が絶対的正義であるかのように振る舞うことがある。
カネモトのハラキリがその最たるものだと思う。劇中で集団意志の大義名分のもとに、カネモトはハラキリを強要される。実際にハラキリを行うにあたい、カネモトは身体中から汗を吹き出して、終始小刻みに震えていた。
そんな状態で果てたカネモトの最期の描写は、当初私が抱えていたやるせなさを具体化させたもののようだった。
「日本人は焦っていた。個人ではなにもできず、集団になって発狂した。もう殴らないでほしいものだ。個人の日本人を恨みたくはない。」
日本語を話せる英国人捕虜のジョン・ロレンスが語った台詞だ。
独裁やそれに近しい国家体制の場合、指導者層の焦りによって戦争の火蓋が切られ、国家の意思と反する個人意志は粛清されていくことも多い。
そんな集団意志に染まりきった状態で、個人の意志を表に出すことどれほど難しいことなのだろうか。
本作で最も有名なハラ軍曹の「メリークリスマス」の台詞。物語の中盤とラストの2回、ハラ軍曹はロレンスに対して「メリークリスマス」と伝えている。
この2回に渡って繰り返される「メリークリスマス」こそ、個人の意志が弾圧される戦争のむなしさ、そして戦争が終わった後の世界への期待の象徴だったのではないだろうか。
私はこれからも、戦争における集団意志と個人意志のやるせなさを感じ続けると思う。そんな思いを解決することはないが共感をしてくれているようで、今の私自身が観るべき映画だったと感じる。