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戦場のメリークリスマスのbeans045のレビュー・感想・評価

戦場のメリークリスマス(1983年製作の映画)
3.5
交錯する東洋と西洋の世界観

この作品の英題はMerry Christmas, Mr. Lawrenceで、観賞後は邦題よりしっくり来る。
坂本龍一が亡くなり、どんな作品だったのだろうと思って観賞。第二次大戦中のジャワ島の捕虜収容所という極限の状況下での東洋と西洋の世界観、価値観が交錯し、捕虜とそれを監督する日本兵を通してそれらが描かれている。戦争映画であるものの、戦闘シーンは全く無い。重苦しい空気が流れ、純文学のような作品だった。原作者の体験に基づいてることもあって、これだけリアルな作品になっているのだと感じた。明治維新以降、日本は西洋に追い付け追い越せでその文化や技術を取り入れ、国際連盟の五大国にもなった。その一方で、欧米人への劣等感を持ち続けて、それが大戦初期の勝利の原動力にもなったのかと感じた。しかし、その劣等感が捕虜に対する非人間的な扱い、日本文化を絶対視するような振る舞いに繋がったんじゃないかと感じた。日本の文化が西洋より劣っているという劣等感を打ち消すためのものであったのだと。日本人であることを誇りに感じ2.26事件にも関連があるヨノイ大尉は高邁な理想を持っていた。(恐らく)成り行きで徴兵されたハラ軍曹は現実世界を上手に生きるリアルさを持っていた。この二人を通して軍という組織の矛盾が丁寧に描かれていると感じた。勝者と敗者で立場が別れる捕虜収容所で、初めて自分の弱い部分を開示したり、日本固有の上司に対する忠誠心であったり、同性愛的な振る舞い等、極限状態の中での人々の心の変化が繊細に描かれていると感じた。それに華を添えるのが誰もが聴いたことのある、あのメロディだ。
また、BC級戦犯の多くはたけし演じるハラ軍曹のように、徴兵され南方へ赴き、本意ではないものの上官の命令通りに振る舞って、戦勝国によって裁かれて戦犯になったのではないかと思う。最後のメリークリスマスは、一番悲しいメリークリスマスじゃないかと思う。
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