幌舞さば緒

戦場のメリークリスマスの幌舞さば緒のネタバレレビュー・内容・結末

戦場のメリークリスマス(1983年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

〝Sowing The Seed〟種を蒔く…舞台は1942年、当時日本が占領していたジャワ島のレバクセンバタ日本軍俘虜収容所。苛めに遭う弟を助けずに目を背けてしまった学生時代の過去を未だに引きずっているイギリス人のセリアズ陸軍少佐は、日本人の俘虜収容所所長ヨノイ大尉が殺意の感情に支配され、イギリス人のヒックスリー俘虜長を処刑しようとするその瞬間、ある哲学に達する。セリアズ少佐は、軍事裁判所でファーストコンタクトを交わし互いに意識し合い、後に〝抜刀〟されてしまった相手に対して、〝あの日、大勢に囲まれて怯え苦しむ弟にしてやれなかった行動〟をとる。セリアズ少佐がヨノイ大尉の前で〝三度蒔いた種〟(種=思想に伴った行動=個の思想が変わるきっかけ=ヒント)は終戦後に各々の心の中で開花したのだろう。キリストと武士道、辿り着く思想の境地はきっと似てるはずなのに、似た者同士で仲良くなれたはずの二人が戦争によってすれ違い、取り返しのつかない過ちを犯してしまう物語。この内容で、日本の美しい音楽家が武士道の美しい日本兵役で、英国の美しい音楽家がキリスト教の美しい英国兵っていうキャスティング…奇跡のような映画だと思う。


台詞メモ

「馬鹿者!何を言っとるか。目隠しは撃つ兵隊達のためだ。死んでゆく者の目を見ないで済む」

「戦争は男の友情を強める。しかしすべての兵士がオカマになるわけじゃない」「お前らは兵士じゃない。ただの捕虜だ。だから規律がなっとらんのだ。だから俺に助けを求めたりするんだ。恥を知れ」「ハラ軍曹、私は恥ずかしくはないよ」

「奴ら日本人はバカじゃありません」「戦局が不利な事は奴らも知ってる。あと2ヵ月で終戦だよ」「それまで生き延びましょう。私は彼らを知ってます。私の意見も聞いてください」「奴らは我々の敵だよ。君は英国軍人だ」「彼らはロシアに勝った事もあるんです」「なるほど。君の出身校は?」「ウィンチェスターです」

「ロレンス、お前は何故死なないんだ?俺はお前が死んだらもっとお前が好きになったのに。お前ほどの将校が何故こんな恥に耐えることができるんだ。何故自決しない?」「我々は恥とは呼ばない。捕虜になるのも時の運だ。我々も捕虜になったのも喜んでいるわけではない。逃げたいし、またあなたと戦いたい」「嘘をつけ!屁理屈を言うな」「いや、最後には勝ちたい。このキャンプが最後ではない。卑怯者の道はとりたくないから自殺もしない」「死ぬのが怖いだけだ。俺は違うぞ!俺はな、17歳で志願して入営する前の晩に村の神社にお参りして以来、このハラゲンゴはな、ここに命を捧げているんだ!」

「変な顔だ。だが目は美しい」

「あの叫び声は何だ。何をしてる」「神に近づく気なんだよ。彼らは過去に生きてる」「救われないな」「今のはヨノイ大尉だな」「君が来てからあの通りだ」「何か言いたいのなら言えばいいんだ」「あれが彼の表現だ」「彼も同じ穴のムジナだな」

「敬意を表したい」「ジャップびいきめ」「お前は自分の部下にも敬意を払わんのか」「あんたは間違ってる!」「この事は発表があるまで口外してはならぬ。いいな?」「何故だ。君は正しいんだろ?何故隠す」「公式の発表を待つ、それが正しい順序だ」「ロレンス、そうだろ?」「違う、あなたは間違ってる。我々みんなが間違ってる」「俘虜全員に命令する。例外は一切認めない。今日明日の両日、労務は中止。全員戸外に出ることなく収容所内に48時間留まり〝行〟を行うのだ。いいな、48時間の〝行〟だ。その間の飲み食いは許さぬ。分かったな」「ギョウとは何だ?」「怠惰を直す日本のやり方だ」「怠惰だと?いつ我々が!」「聞くんだ!彼が言うのは精神的なたるみだ!空の胃がそれを叩き直す」「ナンセンスだ」「兎に角これだけは確かだ。我々がやれば彼もやる」

我らに罪を犯す者を我らが許す如く

「君という男は分からん。バカなのか利口なのか。言っておくぞ。私は将校や兵器に関してヨノイに情報を与える気はない。俘虜長を辞任する気も。ヨノイに言っておけ」

「饅頭と花を食ったが花の方が美味い」

「自分を何だと思ってる。お前は悪魔か?」「そう。あんたに禍いを」「連れてけ」「彼は禍いの神ではない…人間だ。迷信を捨てろ」

「絨毯を取り戻しに来たな」「何故かかってこない!私を倒せば自由になれるぞ!」「殺します」「彼に好かれてるようだな」「房へ戻せ」

「私の従卒が昨夜腹を切った。自殺した者には政府の恩給がおりない。ハラが私に提言した。彼の死を戦死として扱えと。これは彼を弔う葬式だ」「ハラは気のつく男だ」「君の場合もハラが抜かりなく手を打つだろう。君の奥さんは恩給を受けられる」「…人でなし」「私は今朝、ハラの提出書類に判を押した。書類はバタビヤへ。形式上の手続きだ。すぐに承認される。書類が到着次第、君を処刑できる」「ハラは喜ぶだろう」「君は無線機を持ち込んだ」「違う、分かってるはずだ」「違う?では誰がやった。誰かを罰せねばならん」「何故だ?相手が無実でも罪の償いをさせると言うのか?」「そうだ」「つまり、罪は必ず罰せられねばならず、それで私が処刑に?誰でもいいのか?」「そうだ」「〝ギルバート〟と〝サリバン〟のファンか?…違うな。君はふざけるような男ではない。つまり私は死んで君の秩序を守るんだ」「その通り。君は分かったようだな。私のために死ぬのだ」「それは分かった。だが死ぬのは断る。私は嘘を言えば良かったかハラ軍曹!…お前らの神だ。お前らの汚れた神のせいだ。神々がお前らを創った。汚れた地獄で朽ち果てるがいい。私は呪う!お前らの神々を呪う!」

「何が奴らをこんな風に?」「分からん。日本人は焦ってた。個人では何もできず集団になって発狂した。殴らんでほしい。私は個々の日本人を憎みたくない」

「弟は二度と歌を歌わなかった。二度と。弟はやがて父の農場を継いだ。彼の結婚式で彼に会ったがそれが最後で、それからは想いだけが私に…とり憑いた。弟に会いたいのに会わなかった。私は32歳で独身だった。少壮の弁護士と言われたがただそれだけの男。そこへ戦争が。僕は戦争に飛びついた。心の重荷がおりて何年も感じることのなかった情熱を感じた」「外人部隊に入った方が楽だったのに」「楽をしたくなかった」

「捕虜代表、全員揃いました」「ロレンス、何故ここにいる」「昨夜、ハラの責任において釈放しました。昨日、新たに調べた結果、先日、収容所内で発見されたラジオは第7号等の責任者が持ち込んだことを本人が自白しましたので記録した後、直ちに処刑しました。ロレンスを犯人としたのはハラの判断の過ちです」

「私あの、少し飲んでまして…しかし、ロレンスもセリアズも特別我々のためになる人物とは思えません。特別な計らいは我々のためにならんとハラは信じております。お咎めは十分覚悟しております」

「あなたも犠牲者の1人です。かつてのあなたやヨノイ大尉のように自分は正しいと信じてた人々の…もちろん正しい者など何処にもいない。セリアズの事を?」「不思議です。ゆうべ彼の夢を」「夢を?私はヨノイ大尉から彼の髪を預かりました。日本の彼の村へ持ち帰り神社に奉納してくれと」「残念です。大尉は終戦後処刑に」「同感です。考えてみればセリアズはその死によって実のなる種をヨノイの中に撒いたのです」
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