うめ

戦場のメリークリスマスのうめのレビュー・感想・評価

戦場のメリークリスマス(1983年製作の映画)
3.4
公開当時、たけしにボウイに教授と聞いて大島渚もとうとう魂売ったかと憤ったが、
いま思うとそれは見当違いも甚だしかった。
また、当時若い女性に受けたことを監督自身不思議がっていたが、受けた理由もいま見るとなんとなくわかる。

それにしても冒頭で起きる事件とその裁判の場面。ここからすごい。

最初は単なる導入と見ていたが、改めて見直すと、大胆にも大島はこの10分あまりで戦争が孕む濃厚で複雑なテーマを観客に提示し挑発している。
朝鮮人、同性愛、軍属、恩給、切腹、軍人の名誉、戦争と人権、人間の尊厳、国家、、、
大島の名作「絞死刑」「少年」「忘れられた皇軍」に匹敵する、平和ボケの日本人への強烈なメッセージである。

そして物語は国家への怒りや批判とエロティックですらある男の世界を融合させながら、しかし戦闘シーンは一切出てこないという、当時としては驚くべき展開を辿るのである。

まさに異次元の戦争映画。

その異次元の世界観を表出させるには、大島組のいぶし銀の個性派俳優では不可能で、それでこのキャスティングになったのかもしれないと推察する。だとすればその狙いは見事的中している。

生前、黒澤明に対して国策映画を作った監督と批判していた大島。
その批判が正しいかどうかは別として、戦メリは決して黒澤明では作りえない映画であり、かつて松竹ヌーベルバーグと騒がれた鬼才の面目躍如、起死回生の作品と言えるのではないだろうか。
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