Tully

戦場のメリークリスマスのTullyのネタバレレビュー・内容・結末

戦場のメリークリスマス(1983年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

好きか嫌いかというと好きではない。でも心に残るえぐみの美しい映画。日本を理解しようと努力するローレンスと全く英国を理解する気もないハラ軍曹の対比。でも実はお互いを興味深く面白がっていて、奇妙な友情が生まれてた。最後、ハラが英語でローレンスと会話しているのを見てなんだか心がキュッとした。さっき友情って書いたけどこの関係性はうまく文章化できない。暴力を振るわれ憎んでもいただろうし、でも日本人の中ではなんとなく気が合う相手でもあっただろうし、ギャグのように命を救われたり、でも結局は敵の軍人でもあったし。「メリークリスマス」という言葉でしかお互いへの好意を伝え合えない関係性ってなんだ?繊細な表現すぎて、すごすぎる。終始たけしの滑舌の悪さには悩まされたけど、だんだんそこも含めてハラ軍曹に見えてくるから不思議だった。そして、セリアズとヨノイの方もまた。とにかくもうデヴィッドボウイの美しさたるや。ぐちゃぐちゃの軍服着て立っているだけでも輝いてた。坂本龍一も美しかった。いつでも背筋をピンと伸ばし、ギュッと引き結んだ口元。全く対照的な二人だった。かたや、縛られない自由な思考と大胆不適な行動の型破りな将校。かたや秩序と規律と自分のプライドを最も大切にする自己完結した美学をただ行い続ける、くそ真面目な日本将校。ただ、結局セリアズは、ヨノイの事をどう思っていたんだろう。ヨノイは観客からも分かりやすく一目惚れをしてたし、他の人のレビューで「朝方の居合いや行の強行、花見の話など、自分が良いと思う事をセリアズにも良いと思って欲しかったという彼の不器用すぎるアピール」というのを読んで、私はヨノイがさらに愛おしくなった。でもセリアズ側からのヨノイへの感情表現はわからなかった。上の二人(ローレンスとハラ)も複雑ながらもお互いを想っていたし、映画として同じ構図にしているなら、こちらの二人もヨノイからだけじゃなくてセリアズからも想いがあったはず。そうだとしたら、どこに惹かれるんだろうか。ただただ将校としての美学を全うするごちごちの石頭ヨノイのバカ真っ直ぐな姿に何か惹かれるものがあったんだろう、と思うことにした。だって、ヨノイの姿はとても美しかったから。セリアズがそう想っていたとしても納得できるように、観客に彼を美しいと思わせるような作りにしていると思うから。ヨノイの暴走を止める手段として「頬にキス」を選んだところにセリアズからヨノイへの感情が表れているのだと思う。ハラとローレンスの関係は「メリークリスマス」という言葉で、ヨノイとセリアズの関係は殺人を止める手段としてのキスで。繊細で難しい、日本の映画の感性だなあと思った。そこがこの映画の美しさだと思う。
Tully

Tully