キッチー

ぜんぶ、フィデルのせいのキッチーのレビュー・感想・評価

ぜんぶ、フィデルのせい(2006年製作の映画)
3.3
パリで両親と弟と何不自由なく暮らしていた9才のお嬢様アンナが、両親の都合で生活を一変させられ、それでも少しずつ成長していく姿を描いた作品。

父親はもともとはスペインの貴族階級出身、パリで弁護士として働き、母親は雑誌の編集者でしたが、反政府活動をしていた身内がスペインで亡くなったことをきっかけに、共産主義に目覚めてしまい、共産主義的な活動に傾倒、母親も社会的な記者に変貌していく。家族は庭付きのお屋敷に住んでいたのに、職を投げ出して活動するため、狭いアパート(しかも髭面の共産主義者のたまり場)に移ることに...
アンナはなんとかカトリックのお嬢様学校に通うことは許されますが、好きな宗教学の授業は禁止され、貧乏な生活を余儀なくされることになります。

アンナの目線で両親や周囲の変化を見つめていく話なので、なんでこんなことになるのか訳が解らなくなります。そして理不尽な変化にとうとうアンナが爆発。9才の子供には実に気の毒な話としか言い様がありません。
しかし、徐々に状況が掴めていくと、アンナ自身も少しずつ変わっていくので、少し安心しました。
アンナ役のニナ・ケルヴェルは大人に媚びないところがいいと監督が選んだ子らしく、自分の意思をしっかり持っている感じがする少女でしたね。貧乏になったと説明されて、節約のため、電気を消して回るところ、頑固な感じだけど可愛くて良かったです。

彼女の家で働く家政婦さんも、キューバ人→ギリシャ人→ベトナム人の女性へと変わっていくのですが、アンナが彼女たちとの会話から学んでいくところも興味深かったです。

物語としては面白かったのですが、1970年のフランス、スペイン、キューバ、チリの歴史を知らないと内容が理解出来ない映画ですね。特に父親が何で急に共産主義的な活動に傾倒していったのか。ミッキーマウスをファシストと言うくらい(笑)
チリに活動のため出掛けていくところもあり、なかなか難しいかったです。
見終わってから、ちょっと時代背景を調べてしまいました。



...以下、ざっくり時代背景です。

1970年のスペインは、1930年代の左派共和国を倒した右派のフランコ軍事政権が続いていた時期。当初はファシズムの色彩が強かった政権も、この頃はやや薄らいできて性格は変わってきていたようです。
なんでスペイン人の父親がパリに居たのか、やはり政治的な理由もありそうです。

1970年のチリは自由選挙でサルバトール・アジェンテが大統領に選ばれ社会主義国家に変わった年で、この応援のために父親はチリで活動していたようです。

1959年のフィデル・カストロが行ったキューバ革命が波及し、社会主義ドミノとなって結実したという見方もあるようです。なのでフィデルのせいなんですね。

母親がやっていた活動、女性の人権を守る運動(中絶の自由とかの主張)は、やはり、1960年代から発生したウーマンリブの流れがあるようです。ここには宗教上(キリスト教のカトリック等)の問題が絡んできているので、アンナが宗教学を禁止された理由にも関係してくると思うのですが。

それにしても混沌とした時代でしたね。
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