わたしには、卵は主人公・ユセフの心象世界のメタファーに見えた。
序盤で彼は卵を割っている。彼は、ずっと現実と夢想のあわいを曖昧に漂っているようだった。そして、ラストで女の子から無疵な卵を手渡され、それを受け取っている。それは一見、日常の何気ない所作であると同時に、ユセフが過去を受け入れられ、現実に向き合おうという意味も込められているように感じられた。
どこか死の世界に片足を突っ込んでいるような雰囲気を纏った映画だったからこそ、ふたりで食卓を囲うという最も「生きている」と感じられる場面で終わったのがすごく良かった。