deadcalm

卵のdeadcalmのレビュー・感想・評価

(2007年製作の映画)
4.0
「ユスフ三部作」というシリーズの一つで、最初に観るものとしてはどうやら選択を誤ったらしいけど、気にしない。

芸術的な構図と色調で、トルコの異国情緒溢れる情景を詩的に映し出す。隣国アルメニアのセルゲイ・パラジャーノフとかもうちょっと遠くのアッバス・キアロスタミとかが好きな人にはドンピシャ刺さると思う。どっちも学生時代に感銘を受けた監督なので、当然自分にも刺さるものがあった。

映画としては説明が少なく、母の死をきっかけに故郷に帰った主人公ユスフの足取りを淡々と追っていく内容。あまり映画として説明的ではない、日常的で断片的なとりとめない会話と、突然挟まれる意味のよくわからないシュールなカットからバックグラウンドや心情を類推していく行為は、なんだか電車で耳に入ってきた他人の会話の断片からその人たちの関係や人柄を推測するのに似ていて、面白くもちょっと後ろめたい感覚が沸いてくる。「話に出てくる何とかって人、何したんだろ?」とか「この子、話してる相手のことちょっと好きなのかな?相手気づいてんのかな?」とか、そういう一般的には完全に余計なお世話になる勘繰りをしていく感じ。遠い異国に住む自分にはあんまり似てない男の中に、共感できる何かを想像で見出だしていく作業。

そんな作業の合間にやはり説明なく挟まるシュールなシーン。卵を落として割ったと思った次の瞬間気絶から目覚めたり、機織りをする男を見ていたら突然気絶したり、いきなり犬に襲われて気絶して、目覚めたと思ったらさめざめと泣き出したり、なんか結構気絶してるけど全体的に意味はよくわからない。鑑賞者としてリテラシーが足りない説はあるが、基本的にはわからなさを前提として感性で味わうべきものだと思う。たぶん。
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