みかんぼうや

ディア・ハンターのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

ディア・ハンター(1978年製作の映画)
4.3
3時間の作品はどうしても手が伸びにくい。そして、中だるみを感じやすい作品が多いのも否定できない。実際、本作も主人公たちがベトナム戦争に参加するまでの最初の1時間は長く感じた。しかし、終わってみれば絶対に必要な3時間。そして、その最初の1時間があったからこそ、これだけ登場人物たちに対する感情移入度が高まり、結果としてそれが中盤以降の過酷な人生や戦争の惨さ・愚かさを描くヒューマンドラマを非常に濃厚なものにしているという事実。

ベトナム戦争を題材にした作品は、「プラトーン」「地獄の黙示録」をはじめ、5~6本ほど観てきましたが、今のところ本作が一番好きな作品、と言えるほど素晴らしい作品でした。

“戦争物”と言うと、多くの作品は既に戦場の最前線にいる兵士たちを描く作品が多いですが、本作は戦場シーンは3時間中の約1時間程度で、その前後である、出征前の仲間たちとの大切な時間や戦場から戻ってきた後の生活にもそれぞれ1時間ずつ割いており、“戦場の過酷さと悲劇を描いた作品”というよりは、“戦争を通じて人生が狂っていった人間たちのヒューマンドラマ”です。

ベトナム戦争に出征することになった、いつも一緒で深い絆で結ばれた男たち3人が、戦場での恐ろしい実体験を機に、その運命が異なる方向へバラバラに引き裂かれていく。中盤1時間に映される壮絶な戦場での体験の前後で、3人の関係性や心理状況が全く別物として描かれる。その極端なまでの対比が、戦場だけでは見えない戦争の残酷さを強調する。

中盤の戦場でのシーンも、実は戦闘シーンはほとんどなく、戦場で行われるベトナム人によるアメリカ人兵士の捕虜を使ったロシアン・ルーレットのシーンが大半を占める。にもかかわらず、“戦闘シーンより怖い戦場シーン”と言っても過言ではない、死と隣り合わせの恐怖を見事に描いた演出、そしてデ・ニーロはじめとする役者陣の気迫溢れる演技。

出征前の和気あいあいとした雰囲気から戦争を通して変わりゆく3人の関係性は、どこかセルジオ・レオーネ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」で描かれる幼少期からつるむマフィア仲間たちの長きにわたる関係性の変化に通ずるものがありました(こちらも大好きな作品です。主演デ・ニーロなので印象が被るのかもしれませんが)。

マイケル・チミノ監督の作品は初視聴で、この作風であれば他にも色々観てみたい、と思いましたが、意外と作品数は少なく評価が分かれる作品が多いですね。他にお薦めの作品などがありましたら、ぜひ教えていただけたら嬉しいです。
みかんぼうや

みかんぼうや