明石です

光の雨の明石ですのレビュー・感想・評価

光の雨(2001年製作の映画)
4.8
「自己批判と相互批判による総括。この方法は僕らを真の革命戦士にしてくれる、はずだった」

革命の名の下で山の上につどい、総括の名を借りたリンチで12人の「革命戦士」を死に至らしめ、結果、60年代のいわゆる「政治の季節」を終わらせた人々のお話(歴史に果たした役割で言えば、アメリカにおけるマンソンファミリーの事件の日本版ですね)。「連合赤軍リンチ事件」を題材にとった作品を書いたシナリオライターが、役者を募って映像化する過程を収めた異色の作風。まるで映画そのものがPVのような入れ子構造になっているのが面白い。革命とは何か?をつねに外から問う構成になっている点に感服いたした。

ただこれは入れ子構造の弱いところで、二つのストーリーが同時に進行するため、それぞれの物語が若干薄くなる。他のドキュメンタリーなり、若松監督の実録映画なりでリンチ事件の大枠を掴んでおかないと、ストーリーを追うだけでも苦労しそう。たとえば革命左派と赤軍派が合体して連合赤軍になる過程とかはバッサリ切られているので、ある程度史実に明るくないと何が何やらだと思う。(まあそもそも700ページくらいある原作小説をこの130分にまとめるだけでも相当なことですが)。

小説が原作なだけあって、合間合間に挟まるナレーションの言葉のリズムが素晴らしい。簡単な言葉ではないのにすっと頭に入ってくる。人物名や組織名がすべて仮名にしてあるのはなぜなのだろうとは疑問に思ったけど。投資話は事件からまだ30年も経ってないアクチュアルなテーマだったから、関係者に配慮したのかな。ただでさえ事実関係の錯綜してるこの事件が余計ややこしく見えてしまうので、そこは実名でやってほしかったなぁというのが本音。史実に加えて、仮名まで含めて覚えないとストーリーについていけなくなるのは、わりに不親切だと思う笑。

連合赤軍の「指導者」役の山本太郎のオーラが凄く、役者役の中にあってひとり演技力が突出してる(監督役の萩原聖人と大杉漣は別格、というか別次元笑)。あと何気に、自身が演じる森恒夫の、なんらの思想性もない、自分よりも背丈の大きいスカスカな言葉(「自己批判と相互批判による総括の過程によって自己の共産主義化が達せられるのである!」とか)が台本に書かれているのを読んで「コイツ何言うとるか全然わからんわ。ムカつく」とぼやくところ好き。この入りによって山本太郎を絶対的に嫌いにはなれないという粋なハカライなのかもしれない笑。他にも、作中で殴った相手に、カメラ外でタバコの火をつけてあげたりなど、作中作の凄まじさへの配慮が節々に感じられる。しかしこの人のオーラ凄いよ、、寝屋川仕込みのバリバリ関西弁も迫力あっておっかないし笑。山本太郎さんといえば『バトルロワイヤル』で転校生の役を演じていたイメージが強い(あと『カイジ』の船井笑)のだけど、よく考えたら、もともとミナミの帝王とか出てた人だもんなあ。そりゃ、わざわざほかの出演陣と比べるまでもなく迫力が別格なわけですね。

作中で「革命戦士」の一人が、いわゆる「指導者」に「死刑」を宣告された際の最期の台詞「、俺は革命をしたかった!」が素晴らしく真理を突いてると思う。この連合赤軍の事件が、なぜ「革命」ですらなかったに対するもっとも直接的な答え。作品自体も史実への体当たり感がとても好きで、それでいて役者陣への配慮も忘れない(ラストのあのまるで青春の終わりみたいなほのぼのした感じよ笑)。入れ子構造の意欲的な作風も含め、好きな作品です。

物語の必然の帰結として、あさま山荘への立て籠もりがラストに描かれるわけだけど、その部分に関しては、建物の中から窓を叩き破って猟銃を構える男がアップで映されるだけで、「あとは皆さんも知る通りである」とさらりと結ばれてるのが良い!そうなんだよなあ。あさま山荘の件ばかりが有名になり語り継がれてるけど、この連合赤軍が起こした事件の本当に興味深い点はその少し前に起きた「12人リンチ殺害」なわけで、彼らが山小屋で発揮した狂気から言えば、あさま山荘なんて食後のデザート程度のものなんだよなあと、この素晴らしく良く作られた映画を見て改めて思った。

—好きな台詞
「きっかけさえあれば、誰もが”総括”の対象だった。この社会で20年間生きていた僕らに、自己批判を求められない者などいるだろうか」
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