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ベント/堕ちた饗宴のHKのレビュー・感想・評価

ベント/堕ちた饗宴(1997年製作の映画)
3.5
マーティン・シャーマンの戯曲をショーン・マサイアスが映画化。キャストはロテール・ブリュトー、クライヴ・オーウェン、ブライアン・ウェバーなどなど

第二次世界大戦期、官能に満ち溢れた饗宴でごった返すドイツ、ベルリンのクラブで、ユダヤ人でゲイの男が、お気に入りの男と一緒に床に就く。しかし、次の日、家に押し入ってきたドイツ軍により男が殺されてしまう。その後、男はドイツ軍に捕まり強制収容所に送られることに…

同性愛者などもナチスドイツ軍内ではユダヤ人と同じく粛清対象だったそうで、場合によってはユダヤ人以上に非常に惨めな待遇をさせられることもあったのだそうだ。

主人公がゲシュタポに送られる際に、胸に付けられるバッチはピンクトライアングルよりもユダヤの黄色の星を選んだのも、ある種の尊厳の問題というのがあったのだろう。両方糞同然ながら、少しでもマシな方を取ったのか。

映画の構成は前半の主人公がクラブで踊り狂う箇所、その後ナチスに追われ捕まる箇所、収容所の輸送途中、列車内で仲間が拷問に遭う箇所、収容所で無意味な重労働を強いられる箇所の大まかにいえば四つのシークエンスに分けられるのかな。

どうも主人公の心情吐露の台詞が戯曲が原作のせいなのかもしれないがちょっと詩的で叙情的になってしまったり、そこが説明的に聞こえてしまうような気がしなくもない。そういうのが好きそうな人ならなんかはまりそうかもしれないけどね。

一番の見せ所はやはり、映画中盤のホルストとマックスの横並びの直立からのプラトニックセックスだろうね。あそこもやはり個人的には字余りというような気がしなくもないし、なんか途中からは俳優さんの演技が却ってオーバーになってシリアスなのに笑っちゃっうという始末。

しかし、全体的にはホロコースト映画として全うな脚本に乗っ取ったストーリーラインだったので、そこは良かったと思いますよ。列車内で主人公がお互いに惹かれあった仲間を見捨ててしまう所とか、その後少女相手に望まぬ性交を強制させられてしまうとか。

ただ主人公の懺悔の後語りでその光景を説明してしまうよりも、もっと他にも表現の仕方があったんじゃないのかなと思うと、個人的にはなんか物足りないように思えてしまう。

収容所の労働場所の光景は白い砂で覆われていて砂漠とは異なる幻想的な空間を醸し出す。そこからの石を無意味に移動させる単純作業を見せる光景はとても良かったと思います。絶望感が徐々に滲み出てくる感じが良かったですね。

あとは…特に言及することないかな。最後の展開も、個人的には『灰の記憶』ですごいハイテンションな鉄線アタックを見てしまっているので、ちょっとばかり見た後のインパクトは足りない。あそこでの台詞と台詞の間はリアリティを出すための緊迫感なのかもしれないけど、ちょっと温い。

ホロコースト映画やるんだったらもうちょっと毒素と不条理からの絶望感を台詞じゃなくて画面からひしひしと感じ取れるようにしないと、幻想的な空間ていうのはあまりこういう類の映画では求めていないような所でもあるし。

それでも見れて良かったと思います。
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