あなぐらむ

二匹の牝犬のあなぐらむのレビュー・感想・評価

二匹の牝犬(1964年製作の映画)
3.9
シネマヴェーラ渋谷で鑑賞。

先に観た「悪女」に連なる小川真由美&緑魔子作品で、緑魔子は本作では「新スター」扱い。
赤線廃止~五輪目前の東京でトルコ嬢として働きながら、株で蓄財し結婚を夢見る家出娘・小川真由美が妹緑魔子に脚を掬われる悲劇。小川真由美の気迫に呑まれる一本。
これも文学座救援映画なので芸達者、曲者が次々登場。まさにやり手婆な沢村貞子の持っていき感が凄いが、姉妹丼の罠に陥る杉浦直樹が賢しい証券マンを演じ見事。
緑魔子も爆発する目力で小川とキャットファイトを見せ、岡田茂もご満悦だったろう。緑魔子のアパートの住人に爽やか笑顔の岸田森。
トルコ嬢はこの頃は「ミス・トルコ」と言ったのかとか勉強になった(店によるだろうけど)。まだすらりとした宮園純子がトルコ嬢役、北原しげみも。

下飯坂菊馬のホンは「悪女」と同じく心だけは純でいようとする女の転落を正面から描き、メロドラマとしては秀逸。
渡邊祐介のやはり新東宝風味の演出=中川信夫イズムは健在。
一番最後に「よし!分かった!」のあの人がトルコの客で登場、爆笑に包まれるシネマヴェーラ渋谷であった。

「二匹の牝犬」、「悪女」の両者とも「処女」である事に拘る。「牝犬」のトルコ嬢も「悪女」の家政婦も。
特に本作に強く滲む赤線から続く日本の特殊女性(溝口健二の言による)像は、敗戦・占領で米国に奪われながら、心までは、身体の芯までは汚されていない、という事が「処女性」として表現されているのではないか。
あえて下飯坂菊馬を指定して共作した渡邊祐介の中には、岡田茂の思惑とは別に、日本女性の土着的な「身体(それは訛りによって戯画化される)」を小川真由美という演技達者に表現させ、戦後の拝金主義とドライな「性」を生きる女性像を、緑魔子に託してみせたのではないか。
「二匹の牝犬」「悪女」の二本はその煽情的なタイトルとは裏腹に、極めて全うな文芸女性映画としてある。
文学座総出演だから格調もある。しかしこの後、「悪女」で女を手玉にとる役をふてぶてしく演じた梅宮辰夫こそが前面に押し出されて、「夜の青春シリーズ」が進んでいく事になるのが東映東京らしい。