喜連川風連

あの頃ペニー・レインとの喜連川風連のレビュー・感想・評価

あの頃ペニー・レインと(2000年製作の映画)
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それはリアルか?15歳の少年がバンドに帯同して、初恋と現実に直面する。

「空を飛ぶ」という事象がこの映画では効果的に比喩として用いられている。

スチュワーデスを夢見て姉は家を飛び出し、ペニーレインはスチュワーデスの真似をする。スティルウォーターは見かけ以上に評価されて、飛行機で移動するようになる。

それらは薬物でぶっ飛んでるのと変わらない。

母が薬物でぶっ飛ばないように!と警告するが、それは地に足をつけろよ!という意味でもある。

それぞれが空を飛ぶという表現を通じて「ペニーレイン」という夢の中に生きていることを描写している。

バンド名のスティルウォーターも意味は「ただの水」である。

冒頭のシーンでおじさんが悲しげにロックは商業主義に毒されたと語る。

スティルウォーター(ただの水)に値段をつけ、売っていく様は、まさに商業主義に毒されるロックを表現しているが、バンドの内部に入り込んだ少年はバンドの真実をそのまま記事にするかを迷う。

だが、バンドを渦巻く虚栄は飛行機の墜落シーンで見事にぶち壊される。バンドメンバーがどうせ死ぬからと本音を言う展開が、現実に墜落するというダブルミーニングになっており素晴らしい。

命からがら、空港に到着し、地に足をつけ、少年の冒険は終わる。

同時に姉も家に帰ってくる。

バンドはその後、それぞれの裏切りに片をつけ、ローリングストーン誌に真実を掲載する。そして、2度と飛行機には乗らないツアーを開始するのだ。

ペニーレインより、最初に声をかけてくれた女の子の方が可愛いと思ったのはここだけの話。

そんなペニーレインに惚れ込んでいる主人公だが、ペニーレインが睡眠薬で昏睡し、管を喉に差し込まれているシーンがある。それを見てニヤリと笑う主人公に鬱屈とした性衝動があるのを感じた(処置されたのに安心したのかもしれないが)

サルトルが「縛られた女の肉体が1番エロティックである」と語ったのを思い出す。

三島由紀夫がこれを受け、こう語っている。「相手が主体的な動作を起こせない、そういう状況が1番猥褻で、1番エロティシズムに訴えかける。これが人間が人間に対して持っている関係の根源的なものではないかと思います」

まさに主人公のニヤケはこれに該当するのではないだろうか?

ずっとペニーレインの主体性に振り回されてきた、少年が主体的な動作を起こせない少女を手に入れ、悶え苦しむ足を見て、ニヤリと笑う。

なかなかに隠された変態シーンだと思い、良かった。

英題はalmost famous。邦題の方が良いタイトルな珍しい作品だった。
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