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キンスキー、我が最愛の敵のKKMXのレビュー・感想・評価

キンスキー、我が最愛の敵(1999年製作の映画)
4.2
 ヘルツォークが切っては切れない因縁の相手・キンスキーについて語るドキュメンタリー。ホント、キてますね〜2人とも🤣

 ヘルツォークが語るキンスキーは、本当に気が狂っている。10代の時にたまたまキンスキーと一緒に住んでいたヘルツォークですが(このエピソードもキている!)、キンスキーは部屋に枯葉を敷き詰めて全裸で暮らしており、部屋に引っ越してきて2日間風呂場に籠って48時間絶叫し続け、風呂と便所を粉々に破壊したらしい。これ、警察呼んで措置入院でしょ!
 『アギーレ』『フィッツカラルド』の撮影中も凄まじいエピソードの連べ打ちです。エキストラの果物の食い方が気に食わず、鉄兜の上から剣で頭を叩き割るとか、殺人未遂ですからね。エキストラの人が残っている傷痕を見せながら「キンスキーは正気ではなかった」と語る姿は、悲惨さを通り越して笑っちゃう。よく『正気じゃない』という言葉は使われてますが、キンスキーの場合、比喩でもなんでもない、本当に正気ではないです。なんで娑婆にいるのか理解不能なレベル。エキストラのインディオがヘルツォークに「あなたのためにあの男を殺しましょうか?」と善意に基づいて提案したエピソードは爆笑!ここでキンスキー死んでいても納得、ブチ殺されてもしょうがないレベルです。

 とはいえ、最初期のものを除くと、キンスキーのイカれたエピソードは主に『アギーレ』『フィッツカラルド』に偏っており、過酷なロケでキンスキーのアタマがさらにイカれたと思われます。チェコの街ロケで撮った『ヴォイツェック』ではキンスキー落ち着いていたようですし。
 キンスキーは潔癖症だったとのこと。それじゃあ過酷なジャングルロケは向いてないよなぁ。さらに狂っちゃうのも仕方ないですね。
 ラストの蝶と戯れるキンスキーの画はいいですが、サイコパスって動物だけに優しかったりするので、到底素直に感動できません。


 そんなガチ狂人を上手く使って5作も撮ったヘルツォークも相当イカれています。キンスキー相手に一歩も引かないのが凄いし、だからこそ使いこなせたんでしょうね。ジャングルロケがイヤになり帰ると言い出したキンスキーに「帰ったらお前に8発弾丸を撃ち込み、残り1発で自分を撃つ」と言ってシュンとさせたエピソードも凄まじい。ちなみにこれは、それでも帰るのであれば本気で撃つつもりだったとのこと。この本気度がキンスキーを繋ぎ止めたのでしょうね。
 ヘルツォークは「自分だけが冷静」と結構どんな時も言ってました。これもスゴいな。とにかく、映画の枠をきちっと守り、撮り切ることを絶対視していて、必ず信念に立ち戻るので『冷静』という言葉を使ったんでしょう。
 自称冷静のヘルツォークは自分自身をも分析しています。いわく、自分にも怒りがある、ただキンスキーのように爆発しないだけだ、と。つまり、実はこの2人同族なんですね。ヘルツォークの狂気を映画で昇華させるにはキンスキーという狂優が必要だった訳です。

 ヘルツォークはこの冷静さで、見事にキンスキーの狂気、そして自分自身の狂気を映画にパッケージしたと思います。『フィッツカラルド』は当初主役ジェイソン・ロバーツとサイドキック役ミック・ジャガーで撮っていたのですが、ロバーツが降板し、ミックもなんだか知らないが降板して(俳優としてのミックはこんなのばっかり)、キンスキーに白羽の矢が立ったそうです。しかもキンスキーだとサイドキックが不要なので1人で演じてました。
 ロバーツ&ミックバージョンのとあるワンシーンと、キンスキーバージョンの比較が流れたのですが、ロバーツのバージョンだと、めっちゃ爽やかな映画っぽいんですよ。ミックと楽しげに掛け合いして、これから大仕事をするぜ!頑張るぜ!みたいな雰囲気でした。狂気ゼロ。
 しかし!キンスキーが演ると一気にマッドネス炸裂!2人で掛け合ってたシーンを1人でアジるアジる!これから誇大妄想を現実化する狂人のワンマンショーでしかなく、爽やかゼロ、凶々しさ100という実にキンスキー/ヘルツォークな感じになります。
 あと、このアジる感じや顔立ちも含めて、キンスキーってJBにそっくりですね!気が狂っている所も一緒。そう思うと、何してもキンスキーがJBに見える、グッゴッ!


 こういう関係は20世紀でおしまいでしょうね。今のようなハラスメントの概念が盛んになるとこういう関係は難しくなるでしょう。キンスキーのような狂優はもう現れないと思いますが、ある意味そういう人たちはちゃんと逮捕されたり治療を受けられたりする時代になったと思います。ヘルツォークタイプの監督にとってはやりづらい時代かもしれません。
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