セッセエリボー

リトアニアへの旅の追憶のセッセエリボーのレビュー・感想・評価

リトアニアへの旅の追憶(1972年製作の映画)
4.5
2018.11.3 @シアター・イメージフォーラム

2022.12.3 @シアター・イメージフォーラム
すばらしい。目まぐるしいカットや不安定な手持ちカメラの淡い映像それ自体はあまり見やすいものではなく、とりとめがないというかフックが見つけにくい内容も悩ましくもあるが、ある歴史的な出来事について真に語ることは極く個人的な記憶について語ることだという確信を滲ませたメカスの隙間の多い語りが紡ぎ出す言葉の美しさ、私的に撮られたかに見えるこのスタイルがその後数十年のアメリカン・インディーズのスタンダードとなるほどの普遍性を備えていることの舌を巻く計算高さに以前見たときの薄っっすい印象を改めざるをえなかった。頻繁に差し挟まれる黒い画面に白い四角、なんだかわからないが何となく部屋のように見える、ちょっとベケットっぽい。
ポテトパンケーキを高速で焼き上げた後あたり、なぜか一箇所だけ手持ちではなく構図の検討されたフィックスで、いわゆる普通の映画っぽく演出されたショットがある。何のためかわからないが明らかに異質なそのショットの中で、横から入ってきた男(メカス本人?)が一瞬ちらりとカメラに視線を向ける。ホームビデオや日記のようなこの作品が感傷とは無縁のフィクションとしての一線を死守していることを彼の一瞥がぎこちなく突きつける。