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喜劇 家族同盟のkossのレビュー・感想・評価

喜劇 家族同盟(1983年製作の映画)
3.9
ロケーションの見事な裏横浜映画。前田陽一は「虹をわたって」から再び横浜で物語を展開する。山下公園、氷川丸、ホテルニューグランド、寿町、中村川、亀の橋、三吉橋、ダルマ船、三吉演芸場、山手など今では貴重な1980年代の横浜が映される。前田なので、寿町の通りと人々は大島渚「太陽の墓場」釜ヶ崎のパロディではないかと思える。

物語は先駆的な擬似家族であり、反松竹ホームドラマでもある。擬似家族の萌芽は「喜劇あゝ軍歌」に現れているが、今度は物語の主題になる。家族とは何なのか、哲学的な問いの答えは、劇中に何度も発せられる「イメージじゃない」、「一般家庭によくあること」というセリフに暗示される。現代家族の問題ではなく、問いは家族制度や社会、個人に向けられる。そして一貫して家族を描いて来た松竹映画に対する疑義にもなっている。

俳優たちも印象深い。有島一郎のオープニングのタップダンスの巧みさから、サウナや火の中を耐え。大衆演劇座長の中尾ミエは舞台で育ての親への回答を示す。擬似家族への参加を拒否される川谷拓三のラストの狂気と正気の揺れも物哀しい。

前田らしいパロディにもニヤッさせられる。大島「太陽の墓場」のほかに、家族写真は小津「麦秋」だし、大衆演劇の告知に中村川を走る舟は溝口「残菊物語」の船乗りこみ。川谷が朝食に食べる牛乳と魚肉ソーセージは「傷だらけの天使」。こうした隠れた遊びを見つけるのも前田映画の楽しみである。
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