犬のロボット

秋刀魚の味の犬のロボットのレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
4.9
当時と現代の価値観が大きく異なっていることは念頭に置きつつ、個人的にこの映画において小津安二郎は伝統的な"父親"のあり方をとてもアイロニカルに描いているように感じた。本来家族を守る立場であるはずの父親が世間の潮流に流された結果自らの手で家族を解体したことは象徴的(このシチュエーションは「晩春」と同じだけれど、家族の内情、特に父と娘の関係性が異なっている)。そして、「負けました」のセリフが示す通り、作品において"日本の敗北"は"笠智衆の敗北"と重ねられている。笠智衆は結婚に対する娘の意思を尊重したい、いわば現代的な価値観とほとんど自らの手で娘を結婚させるという伝統的な父親の役割で揺れながら、最終的に"父親の役割"に敗北する。海軍の歌を酔っ払って歌う姿はひょうたんのとそっくりだった。ひょうたんは伝統的な"父親の仕事"を果たせなかった敗者のように扱われているが、娘を結婚させるという父親の仕事を全うしたはずの笠智衆も敗者だった。そして、日本が敗北し西洋の新しい価値観や文化が流入し、戦前の日本が失われていったことは、笠智衆がこの作品で担うことになった伝統的な父親の役割がいずれ時代遅れの遺物になっていったこと(いわば、敗北した)と同質の出来事だと思う。それを踏まえて、父親の役割を担いながら若い女と結婚した友人に「汚らしい」というようなことを言ったのは彼のせめてもの、"父親社会"への抵抗のように感じた。そして、この"父親社会"の気持ち悪さは常に作品を通して描かれている。また、ラストの場面で息子がこれから彼のケア要因になっていくのが示唆されているのも興味深い。ひょうたんは娘に身の回りの世話をしてもらっていたが、笠智衆のそれは息子であり、この対比からここでも娘が家族のケアをするというかつての伝統の解体が試みられていることがわかる。概して、この映画は表面的には古き良き"昭和の父"の物語に見えるが、内実はそれを皮肉たっぷりに描いており、とても現代的な視線が存在する作品であると思った。それと映像も本当に素晴らしかった。小津監督らしい被写界深度の深さが生み出す奥行きのある美しいショット。特にクラス会の場面のショットが印象的だった。

面白すぎて死ぬほど真面目に書いちゃった!レポートぐらい文字数あってウケる。若干恥ずかしいけどこうやってちゃんと書いた方が記憶残るから良いことだよね。
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