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秋刀魚の味のthornのレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
4.8
正面を見据える建前の目線と、それ以外の本音の(自然体の?)目線の使い方が斬新。平山さんの(Perfect Daysと同じ名前だ!)目力がだんだん弱くなってくるのが悲しい。喜び、驚き、怒り、悲しみ、軽蔑、嫉妬、罪悪感、目に宿る感情の機微がすごい。孤独になると男は酒を見るw

この映画の視線の圧迫感は、見られる側の抑圧された感情を表しているところもあると思いました。カメラそのものが、視線を受けている人そのものを表している。カメラは=人なのです。カメラに感情をもたせている。映画ってすごいよね。

行進曲のシーンが、戦争の強烈な残り香、言うなれば呪いのようなものを感じさせる。明るい戦後世代のカフェーの女の子(岸田今日子)とのギャップ、平山のうつむく顔とともに、この作品の背景に戦争があるのは疑いようがなく、かつ、艦長と部下、父と娘、会社の上司と部下など、上下関係に依存する日本社会の根本的な病理も炙り出そうとしているのか。

三浦さんに彼女がいることを告げられた通子の淡々とした受け答えの声だけを聞いて、うちの彼女が「怒ってる!」と理解したのが素敵だった。そう、彼女は怒ってる。若い女性の怒りを作品に取り上げるのも先進的なのではないでしょうか。
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