海

秋刀魚の味の海のレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
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小津安二郎の映画を観るといつも、ここに居たいと思いなおせる。帰ってはこない旅に出掛けようとしてる晩だって、旅行鞄の前でいつのまにか眠りについてしまうだろう。かじかんだ心が、温かい熱でとかされる、頬から温まっていく感じがする。だれかを想うあまりに振られていくしあわせは、この世には沢山あるだろう。今それが、昔と比べて多いのか少ないのかはわからないけれど、わたしもある種のしあわせを振り続けている人間のうちのひとりなんだと確信がある。自らという個が幸福になるためだけに突っ走っていける女の子にあこがれる、羨ましくて胸焼けがするほどあこがれる。だから、いつも立ち止まって振り向いてばかりいるわたしのことを、優しく見ていてくれるようなこのまなざしの映画に、わたしはこうも簡単に溶かされてしまう。
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