mh

開戦の前夜のmhのレビュー・感想・評価

開戦の前夜(1943年製作の映画)
-
大胆な設定のエンタメ国策映画。
後年作られることになる日本の戦争映画ではまず間違いなく嫌われ者となっている憲兵を主人公に据えている。
もうひとつすごいのが、宣戦布告せずに真珠湾攻撃したことが正しかった世界線の話になっているところ。なんだけどよく考えたら日本は終戦まではそのスタンスだったんだよね。
というわけで、開戦が近いいま、主人公たちは国内にいる各国の大使を監視している。艦船の動きを悟られないよう残業続きの毎日を送っている。
おそらく歌舞伎座で娘道明寺を田中絹代にやらせるという松竹のポテンシャルをいかんなく発揮したプロットがいいね。さらっとやっているいけど、戦中の歌舞伎座は貴重な映像。
男たちの無言の別れがニ回もあるのがまたいいね。
ひとりは同級生。酒を持参して備前長船をねだる。形見だからといったんは断るも、結局あげてしまう。
ひとりは弟。妻が席を立ったすきに、ふたりで水盃を交わす。比喩表現ではなく本当の水盃で、これは相当レアなプロット。
大げさな言葉はないけど、どちらも今生の別れを示しているのだった。
田中絹代の主人公への愛もセリフになってない。ただ行動で示すので、その深さが伝わってくる。そっけない主人公がまたいいんだよね。
日めくりカレンダー「7」を破いて「8」になったところにズームアップ。音楽も盛り上がる。いよいよ日米開戦――のちに大詔奉戴日がやってきたというわけなんだけど、いまならこれはピンとこないひとがけっこういそう。終戦記念日とか大空襲の日は覚えててもおかしくないけど、大詔奉戴日は知ってるほうが少数なんじゃないかな。
かくして真珠湾攻撃が成功する。
この映画には、あの12月8日の感動を観客にもう一度味わわせるという目的もあるのだった。
外国人に寄せてく気がない役者陣も素晴らしい。「間諜未だ死せず」のときの外人役には英語喋らせていたのにな。
感想がどこにもないけどかなり面白い国策映画だった。
さすが吉村公三郎といったところか。
mh

mh