ジュリアン

ナッシュビルのジュリアンのレビュー・感想・評価

ナッシュビル(1975年製作の映画)
5.0
歌手に焦点を当てつつ、 70年代のアメリカ人を淡々と描写するという瑞々しい程の退屈さが続くほど、劇中で度々反復する政治家の街頭演説が滑稽に写ってみえる。政治的無関心さを是正するように訴える演説から始まったこの映画は、最後にスターの人死にも関心を払わない後援者たちの姿を映して終わる。

世論を二分したベトナム戦争は終結しちゃったので次の論点に右往左往し、大統領はウォーターゲート事件で失脚するという混沌を迎えたアメリカ国民がアノミーに陥っていたんだと実によく分かる。

だけど、めっちゃ変な映画。監督がアルトマンだから、俳優のセリフも全部彼らの即興だし、曲も俳優自身が考えて歌ってる。そんな映画作りをしてるのにアメリカ人とカントリーソングをバカにするという方向性だけは見失わない。これがアカデミーでノミネートされるんだから懐が深いね。

なんだか肩肘張らずにシュールなブラック・コメディとして風刺できる監督が他国にはいるというのが羨ましい。極端なカリカチュアか相反する者への雑な描写によって質を毀損してしまう風刺コメディ系の邦画もアルトマンみたいな作風で作ってほしいな