Eike

うず潮のEikeのレビュー・感想・評価

うず潮(1975年製作の映画)
3.5
1975年公開のフランス映画。
私が本作を見たのは名画座(これももう死語ですかね)の2本立ての一本として。
この邦題やポスターの印象からは男子が好んで見るような作品では無かったのですが、いざ鑑賞してビックリ。
意外にも(?)とても楽しめたことを思い出します。

カトリーヌ・ドヌーブ、1943年生まれですから本作に出演時点で32歳ですか…正に”女盛り”と言った感じです。
ところがお相手というか主演の(タイトルの野蛮人は彼を差してますからね)イブ・モンタンの方はこの作品の時点で54歳だったんですねぇ(ご立派!)。
共にフランス映画界を代表する大スター2人の実質初共演作が本作なのですが全くと言っていいほど肩に力が入ってないラブコメ調なのでビックリ。
70sのウディ・アレン映画の常連組、トニー・ロバーツが出てたりすることもあってアメリカ映画風の軽さも感じられます。

とは言え、そこはやはりおフランスの映画。
節操のないコメディに仕立てるのではなく、ちゃんと観客に余韻を味わう余地を残してくれていて「味わい深い」。
物語の設定の浮世離れぶりは甚だしいのですが、ベネズエラはカラカスの町の風景とエメラルド・グリーンの海、そして孤島暮らしのトロピカルなフレーバーはロビンソン・クルーソーを挙げるまでもなくロマンに満ちたアイランド・ライフのお膳立てとして完璧。
その孤立した環境の只中に魅力的な男と女が放り込まれる訳で、ある種、南洋ファンタジーの気配も濃厚なロマンス映画になるのは実に自然な成り行きなのだ。

ただし、注目したいのはこの二人が決して血気盛んな若者たちではないという点。
それぞれが浮き沈みを経験し、人生が決して自由気ままにやり過ごせるほど甘くないことは重々に承知している、そんな二人なのだ。
だからこそ謎めいた”野蛮人”マルタン(Y・モンタン)の浮世離れした生活にはどこか不自然さが見え隠れしているわけです。
それでも一見、平穏に見える彼の生活に乱入してきたネリー(C・ドヌーブ)に振り回され、反発しあいながらも彼女との触れ合い惹かれてゆく彼の姿はある意味滑稽でもある。
しかし奪われた彼女を追って自ら楽園を出る決心をする彼の心の変化もある程度の年齢を重ねた観客なら只のファンタジーと笑い飛ばす気も失せる切実さを感じ取ることも可能。
人は一人ぼっちで生きるにはややこしすぎる生き物なのだ。
楽園を出たマルタンはその途端に楽園での生活が作られた虚像であったことをこっぴどく思い知らされる訳です。
それでも現実を受け入れて困難に直面しながらも愛する人の元へ向かう彼の姿は身につまされると同時に励まされるものでもあります。

実は劇場で見た時は随分と地味な終わり方だなと感じたのですが、今改めて考えて見るとこのさりげない幕切れの「リアル感」の味わい深さが良く分かります。
やっぱりフランス映画は大人味だなぁ...。
Eike

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