Ricola

父ありきのRicolaのネタバレレビュー・内容・結末

父ありき(1942年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

父が常に子を思って誠実かつ懸命に生きていたように、子も父を思ってひたすらに努力を重ねていた。
お互いを思い合う親子の年代記は、涙なしでは観ていられないほどのあたたかさと慈愛に満ちたものだった。


もちろん、小津安二郎らしいきめ細やかで計算しつくされた美しい構図も素晴らしい。
例えば、壁にもたれて並ぶ傘。生徒たちが廊下を走っていくと、一つだけ傘が床に落ちる。この落ちるというのは他のことを示唆した動きでもある。
他にも、紡績工場のグルグル回るスピン、小さな窓の並ぶビルなど。
このように、相変わらず並ぶものを美しく見せることへのもはや執着ともとれる徹底ぶりはさすがである。

また、息子が少年から青年に成長しても、変わらぬ父への愛があるということが、反復される似たショットからよくわかる演出が興味深い。
例えば親子で並んで川釣りをしているシーン。この釣りのショットが反復されることで、親子の変わらぬ絆を示すのだ。
ふたりとも川の流れに沿って左から右へと竿を回す動きをする。
子が親の動きを真似するというよりは、シンクロした滑らかな動きなのである。
大人になった息子と父親の釣りの様子のショットも子供の頃と同じように、二人の背中のロングショットから横顔を映すミディアムショットで映される。昔のように左から右へと竿を動かすのももちろん変わらない。

同様に、俯く息子のショットも反復される。
父は息子を思うゆえに厳しい言葉をかける。息子はまだ甘えたい盛りの子供であるが、父を信じて自分の思いを我慢して呑み込む。涙を目に浮かばせる息子に、父も歯がゆい思いをしていることは明らかである。
時を経て成長した息子は、父と一緒に過したいという思いをもう一度勇気を振り絞って伝える。
それでも受け入れてもらえず、彼はまた幼き頃のように黙って俯くことしかできない。
だが父も彼のことを思うゆえの判断なのである。
この2つのシーンではどちらにおいても、相変わらず正面から映すクロースショットが用いられており、ショットが反復されていることが明らかである。

そして、父との別れのシーン。
涙がつたった跡が目尻の延長線上に白く光る父。息子は亡くなった父の目の前でさえ泣けない。
息子が本音をやっと口に出せたのは、父亡き後に結婚して列車に乗っている最後のシーンである。
彼の感情を代弁するように涙する妻。
この対比的描写から、彼が最後まで父の前で我慢していたことがよくわかる。

父の責任感と自分自身および息子への厳しさゆえに、親子は同居が許されなかったが、お互いに思い合う気持ちは揺るぎないものであり他に替えがたいものであることが、丁寧かつ繊細な人物の感情描写でよく捉えられていた。
Ricola

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