ヒノモト

カメレオンマンのヒノモトのレビュー・感想・評価

カメレオンマン(1983年製作の映画)
5.0
映画を観た帰り際にふと渋谷TSUTAYAに立ち寄って、配信されていない映画で、改めて観直したい映画をレンタルしてきました。

ウディアレン監督主演による1983年のフェイクドキュメンタリーコメディ作品。
物語は、1920年代ニューヨーク、自分のいる環境によって白人にも東洋人にも黒人にも変身してしまう不思議なユダヤ人ゼリグが精神病院に収監され、精神科医のフレッチャー博士により献身的な治療が行われていく中で、注目を浴びマスコミによる寵児となり翻弄されていくお話。

不確かな記憶では、初めて映画館で観たウディアレン監督作品がこれか、次作の「ブロードウェイのダニーローズ」で、これ以降、旧作も含めて監督作品を追いかけることになります。

個人的にはアカデミー賞作品賞の「アニーホール」から脚本賞の「ハンナとその姉妹」あたりまでの作品が、自身が出演されている作品の中でのクオリティとしてピークかと思いますが、その中にある今作は、好みのジャンルであるフェイクドキュメンタリーの手法を最大限に生かした上で、皮肉たっぷりのコメディとして昇華された最上級の完成度だと感じます。

フェイクでありながら、当時のニュースなどの映像素材を巧みに織り込みながら、主人公ゼリグを祭り上げる象徴として制作されたレコードや映画などのリアリティを感じる説得力とウディアレン自身のカメレオン人間としての変身の面白さと皮肉、独特の語り口が、ウディアレンだからできる面白みと深みを強く感じさせます。

CGのない時代ながら、ヒトラーの演説など、写真や映像に溶け込ませることによるフェイクとして違和感も最小限で、思想家などのインタビューなど、表面的には至ってシリアスに構成された作風でありながら、マスコミに潮流や人種問題に対する皮肉がたっぷり詰まっていて、それでいてパーソナルな人に好かれたいがための精神の表面化をビジュアルとして分かり易く、80分くらいの本編に存分に詰め込まれた手法の鮮やかさに、コメディとしてのフェイクドキュメンタリーのトップクラスの作品だったと改めて感じました。
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